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▼ 大三元を阻止される

隊室でのんびり漫画を呼んでいると、ばたばたと騒がしい音を立てて隊室に入ってきたナマエさんに麻雀教えて!と突然肩を掴まれた。おい今の勢いでちょっと漫画に折り目がついたんだけど。ていうよりもなんでいきなり麻雀。仕方なく話を聞くと、諏訪さんと太刀川さんにいつものように煽られたらしい。そういえばよく諏訪隊の隊室で東さんとか雷蔵さんとかと麻雀やってるって聞いたことあるわ。ナマエさんはそういうのやらなそうだし、そもそもルールを覚える前にカモにされてしまうだろう。だからこそ、助っ人としてわたしを呼びに来たと言うわけである。雀卓を囲むなんてあまりないし、たまにはいいかと思って仕方なくこたつから抜け出して立ち上がった。ひとつ貸しな。

「待たせたな!」

ぐいぐいわたしを引っ張るナマエさんが諏訪隊の隊室に勢いよく飛び込んだ。なかでは準備をしている諏訪さん、太刀川さん、東さんの姿。本当に来たのかよ、と鼻で笑う諏訪さんと太刀川さん。東さんは苦笑していた。一か所空いてるので、そこにわたしが座り、わたしの後ろにナマエさんが座った。

「つーかみょうじおまえ麻雀できんのかよ」

「ふ、わたしは嶺上開花の使い手…甘く見てもらっては困る」

「咲かよ」

「太刀川さん話わかんじゃん」

「なんだよ嶺上開花の使い手って……」

諏訪さんはわかってくれない。麻雀好きなのに咲を見てないってどういうことなの。わたしは阿知賀編がすきです。ナマエさんは嶺上開花って何?と聞いてきているので論外。今度咲を全部見せるか。あれ見てもそこまで麻雀に詳しくなるとは思えないけれど。アカギとかでもいいんじゃないだろうか。鷲巣麻雀やろうぜ!

「まあ冗談は置いといて、わたしは麻雀花札ポーカーブラックジャックバカラちんちろりんなんでもできますよ」

「みょうじの将来が心配になるな…」

「賭け事ばっかできる女子高生…」

あんまりやんちゃするなよ、と東さんにちょっとマジなトーンで言われてしまった。金銭は賭けてないから。そんなことにお金使うくらいなら課金します。とりあえず半荘戦でいいか?と諏訪さんが牌を混ぜ始める。これやりたい、とナマエさんが言うので、混ぜて山を作るまでやってもらうことにして、今のうちにソシャゲの体力を消費することにした。

「山の数ちげーよ!!」

「ええええ知らないよ」

「初心者は引っこんでろ!」

「ひどい!!」

当然山の作り方すらわからないナマエさんが諏訪さんと太刀川さんに怒られているが、これも経験だろう。東さんが優しく教えているから大丈夫なはず。時間はかかったものの、ようやく一局目が始まるらしい。起家は東さんだった。東さんの隣のわたしの風は北である。配牌が終わり、自分の手を確認してからナマエさんに説明をする。基本的には同じ牌を3つ集めるか、同じ柄で数字を3連番にして、頭となる同じ牌を2つ作ること。鳴く、と呼ばれる他の人の捨て牌を手に加えることもできるけれど、3連番にするために鳴くチーは上家…つまり西家の諏訪さんからしかできないこと。鳴くと立直できないことを簡単に説明したが、全然理解してる様子がない。

「……オープンでやりません?」

「ぜってーやだ」

教えるのならみんなでオープン麻雀した方が絶対早いと思うんだけど意地悪な太刀川さんに拒否られてしまった。

「とりあえずやって見せるのが早いんじゃないのか」

大人で優しい東さんがそう笑って牌を捨てる。捨て牌は南だった。

「みょうじ!これあれだよ!ポンできる!ポン!」

「ちょ、馬鹿!!!」

「ほぉーポンな、ほらポンしろよ」

「今のわたしが言ったんじゃないんだけど!」

「ミョウジも含めてのチームだろ。冷たいこと言うなよ」

大人げないにもほどがある野郎どもだった。東さんが今のは見逃してやってもいいんじゃないか、と神様みたいなことを言ってくれるが、太刀川さんと諏訪さんが譲らず、わたしは自風でもない南をポンすることになってしまった。しぬほどいらんわ…。ナマエさんは余計なこと言わないで、と睨みつけるがなぜ怒られているのか分からない様子。ポンの宣言もありえないけど大声でポン出来るとか言うなよ。わたしの手がバレるだろうが。立直もピンフもタンヤオもつかないし、もう対々和狙うしかないかな。とりあえず東さん以外には死んでも負けたくない。都合がいいことに、手元にはドラが対子である。誰か捨てたらポンすればいいし、自分でツモればそれでいい。もし両方できなくても頭にしてしまえばいいのだ。東さんを最大限警戒しつつ、ポンを2回重ねてテンパイ状態まで持って行った。手元にドラを2牌含めた4牌とポンした3面子。たくさん鳴いただけあって手の進みが早いわたしはそろそろ警戒をされているのか、東さんはあからさまに安牌しか捨てない。ドラ来いドラ。できれば太刀川さんか諏訪さんから直撃。

「これかこれが来れば勝ち?」

「……余計なこと言うなって言ったじゃん!!」

「おいあいつテンパってるらしいぜ」

「ミョウジー何待ち?」

言いながらさすがにドラ待ちはねーだろ、と無様に振り込んだ太刀川さん。よっしゃ高め。

「ロン!」

「は?」

「対々ドラ3!満貫!8000点!」

「はあああああ!?」

「ゴチでーす」

ばん、と手牌をオープンすると、太刀川さんが悲鳴を上げた。これが罰が当たるってことですよ。今のは思いっきり危険牌だったろ、と諏訪さんが太刀川さんを馬鹿にするが、そういうのわかんないから太刀川さんは馬鹿なんだよ。8000点しっかりもらい、また牌を混ぜるのをナマエさんにやらせる。今の勝ったの?と何が何だかわかってない様子に、最初に説明したでしょ、とだけ吐き捨てる。LP消費にわたしは忙しいのだ。やはり代わりに丁寧に教えてあげている東さん。なんで最初から東さんに教えてもらわないのだろうか。その後も説明途中に勝手に牌を捨てて諏訪さんに振り込むなどの度重なるナマエさんの妨害を受けつつ、わたしまで親が回ってくる。ここまできて、ナマエさんはまだぼんやりしかルールをわかっていない。

「よしわかった。全部の19字牌を1個ずつ集めてそのうちどれかを2個にしてくれ」

「国士無双じゃねえか!」

「捨て牌で国士は丸わかりだからすべては自分のツモ次第だよ」

完全に勝ちも教える気も捨てたわたしは、ナマエさんにひたすら国士無双を狙わせるという暴挙に出る。仕方ないよね。国士無双を覚えたら次は四暗刻を教えてあげるね。ちなみにわたしはいつもピンフタンヤオ一盃口三色あたりを狙いに行く堅実派である。自分の配牌がよっぽど悪くなければなるべく冒険はしない。堅実に守りを固めて振り込まないがポリシー。もちろん嶺上開花なんて狙ったこともない。ナマエさんに席を代わってすぐ、配牌をチラ見したわたしは黙ってナマエさんをそこからどかした。

「ちょっと!1と9と字のやつにすればいいんでしょ!?」

「ばっか!ナマエさんばっか!!!この配牌で国士なんか狙うわけないじゃん!しかも親!!!」

ナマエさんの代わりに卓について、配牌を整理する。どうなってんだ。小三元イーシャンテンじゃないか。大三元だって全然狙えてしまう。当然大三元を狙いにいくけれど。ふっふっふ、と笑いが抑えられないわたしにあからさまに警戒し始める面々。そう、警戒したまえ。それでもわたしが天に立つ。数巡で場に出た白をポンして、すでに發が暗刻で中が対子のわたしはこれで小三元テンパイである。あとは中もしくは頭になる予定の八ピンが出たら上がり。わたしが対子で持っている以上、誰かが対子で持っていない限り中が出る可能性は高い。わたしのモチベーションと白のポンで悟られていなければ。東さんは何かを考えるように手牌を見つめている。さすがに東さんには気づかれていそうだ。その時、わたしの後ろでスマホをいじるナマエさんがわかった!と大きな声をあげた。

「これ大三元ってやつだ!」

当然、そのあと中が場に出るわけもなく。一気にモチベーションが下がったわたしは、半ば投げやりになり、東さんに思い切り振りこんでしまった。ついに人生の中で大三元を上がれる日がきたと思ったのに。もう二度とナマエさんとは麻雀をやらないと心に決め、それでも麻雀が覚えたいというナマエさんのスマホに麻雀アプリをインストールして投げつける。さすがに太刀川さんと諏訪さんがわたしを憐れみの目で見てきたので、今度わたしの代わりに教えてあげれば、というと即答で拒否された。その後も時々ひとりで麻雀に混ぜてもらったが、大三元を上がる機会は二度と訪れなかった。


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