▼ 諏訪と堤と飲みにいく
堤も誘ってるんで今日飲みにいきません?大丈夫ならいつもの居酒屋予約しときます。とLINEが来たのは昼間のことだ。
ミョウジナマエ。俺の1つ年下でA級下位のみょうじ隊の攻撃手。高校の時に知り合って、あいつの割りと人懐っこい性格と気が合うこともあって、よく飲みにもいく後輩になるのに時間はかからなかった。たまに人を馬鹿にしているようなところはあるが、なんだかんだ妹のように思っている。しかし堤と3人で飲みということは、どうせ今日大学であった出来事について聞いてくれとのことだろう。講義を終えていつもの居酒屋に向かい、予約をしていることを伝えて席に通されると、二人はもう飲み始めていた。
「あ、諏訪さんお疲れ様でーす」
「お疲れ様です」
「なんだよおまえら、もう飲んでんのかよ」
「今日の最後の講義、堤と一緒だったんで、先に飲んでました!」
すいませーんと悪びれもせずへらりと笑うミョウジに文句を言うと、堤が注文してくれていたのか、俺の分のビールが届いた。
「こいつ結構酔ってんのか?」
「いや、いつもとペースは変わらないんですけど、最近飲みにも行ってなかったみたいで」
隣の堤にこそっと聞くと、俺が来る前から割りと飲んでいたようだ。はぁ、とため息をつく俺のことは無視して、では諏訪さんのビールも来たことですし乾杯ー!とミョウジの声が響いた。
「で、今日はどうしたんだよ」
3杯目のビールに口をつけたところで呼び出された理由を聞いてみる。さっきまで楽しそうに自分の隊の話や太刀川がやらかした話をしていたミョウジの顔が急に雲っていった。
「…風間さん、今日同じ学部のかわいい子に告白されてましたよね…」
やっぱりだった。風間とレイジと俺は大体同じ講義を取っているので移動もほぼ一緒だ。いつものように移動の途中で今日は確かにかわいい子に風間が呼び出されたのだった。
「ナマエちゃんもOKはしなかったって聞いたよね」
「なら別にいいじゃねーか」
「そういう問題じゃないんですよ!私なんかバレンタインからなんの進展もしてないのに!誰が見ても風間さんに釣り合わないっていう現状をなんとかしたくて頑張ってるのに…」
うぅ、と項垂れながら枝豆を頬張るミョウジに、そういやこいつバレンタインに風間に告ったんだったなと思い出す。それに小姑みたいな菊地原もいるし…と更にミョウジの声が小さくなっていく。確かに菊地原は風間だいすき人間だしな。俺が見ていてもわかる位、ミョウジに対して警戒心剥き出しである。
「告ったって言っても宣戦布告みたいなやつだろ?それよりもささ!いざ模擬戦を!とか言ったの誰だよ」
「う、私ですけど…だって絶対風間さんの中で私って恋愛対象外じゃないですか…とりあえず今までの行動で駄目なところをみょうじに指摘してもらって直してる最中です…」
「おまえそこまでやってたのかよ…そこはまぁ、風間だしなぁ」
思ったよりも努力はしていたらしい。確かにうちの隊室でごろごろしなくなったし、太刀川と騒いでいるのも減った気がするし、飲みに行くのも敢えて減らしているのだろう。だが相手はあの風間蒼也である。そもそも風間に彼女とか聞いたことないしな。背は小さいくせにモテるあいつの顔を思いだし、苦笑いする。
「長期戦は得意だと思ったんですけどねぇ。やっぱりかわいい子に告白されたって聞いたら私だって凹みますよ」
風間もミョウジをかわいがっているとは思うが、風間の恋愛対象になるのは至難の技だろう。とりあえず好意を持っていることを伝えられただけまだましか。
「ナマエちゃん、せっかく久しぶりに飲みに来たんだし、今日はとにかく飲もうよ」
ね?という堤の提案にうんうん!飲む!と答えるミョウジを見て、これ以上めんどくさいことになるのはごめんだと思っていたので堤よくやったと、ほっと一息ついた。しばらく飲んで、ミョウジがトイレに立つと、堤に尋ねられた。
「実際諏訪さん的に見てどうなんですかね?」
「あー風間か?あいつそういうとこでは何考えてるかわかんねーしな。100%脈無しって訳じゃねぇだろうけど、良くて妹みたいなもんだろ」
「ですよね…」
容姿的に見たら、美人揃いのボーダーではミョウジは良くも悪くも普通だろう。特に大学生の女子なら加古に月見に小鳥遊。かなりレベルは高い。
「まぁ同じ攻撃手だし、他の女子よりは目をかけてるって感じか」
「大変な人に片思いしちゃいましたねナマエちゃん」
「まぁあとは本人たち次第だろ。頑張れとしか言い様がないな」
「お待たせしました〜」
ちょうど話の区切りがついたタイミングでミョウジが戻ってきた。その後はしばらく他愛のない話をして、居酒屋を後にした。
「今日はお付き合いいただいてありがとうございました。堤もありがとう」
「まぁ別に飲めたしいいけどよ」
「うん俺も」
「また飲み行きましょうね〜」
では!というミョウジに送っていくかと尋ねると、そんなに酔ってないんで大丈夫です!1人で帰れます!と元気に返事をして帰っていった。いつもなら飲み会の席で寝そうになるか千鳥足で誰かが送っていくかしていたが、確かに足取りはしっかりしているし、特に問題はなさそうだ。こういうところもみょうじに指摘された直しているところの1つなのであろう。なんだかんだかわいい後輩の好意を、風間が受け入れてくれるといいと思いながら俺も帰路についた。