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▼ ヒュースの噂と焼き肉

ヒュースが近界民である、という噂がC級隊員の中で流れているらしい。と言っても、確証があるものではなく、先程の玉狛第二のランク戦を見て、その実力から目立っていたヒュースが話題に上がり、大規模侵攻時に彼を見た、と言い張るC級隊員がいるという話らしい。でもそれが真実である以上放っておくことはできない。正隊員の中でも、遠征経験組やクローニンさんのことを知っている人はヒュースが近界民であることはわかっているし、そう軽率なことをするとは思わないけれど、何も知らないC級の中で広まるのが、きっと一番まずいだろう。最悪、遊真が近界民だというところまでバレてしまうかもしれない。玉狛第二と影浦隊と鈴鳴第一と東隊のランク戦を二宮さんたちと観て、上位グループで6得点を獲得した玉狛の可愛い後輩たちのお祝いに向かうと、遊真とヒュースは個人ランク戦に、千佳ちゃんは夏目ちゃんと約束があるそうで、頭を思い切り撫でくり回してから見送った。ヒュースにはめちゃめちゃ嫌がられた。

「今日のはいい試合だったね〜上位部隊相手に6得点!」

「ヒュースと遊真の連携もいい感じだったよね〜」

「はい」

三雲くんと栞ちゃんと話をしていると、試合前から三雲くんが抱えていたという胸のもやもやについての話になる。それは恋じゃないか?とは思ったものの、漠然とした不安、という言葉に玉狛第二の不安要素について考える。千佳ちゃんが誤ってとはいえ、人をベイルアウトさせたのは結構心配だけど、試合前から抱えていたということはそこじゃない。すると、三雲くんに菊地原からくっそ生意気なLINEが届いた。え、なに、LINE交換してんの?菊地原あいつわたしが何回“てかLINEやってるぅ?”と聞いても頑なに教えてくれなかったというのに。まあスタ爆とかどうでもいい内容送られると思ってるんだろうな。当たってる。三雲くんが菊地原とLINEのやり取りをしていると、今度は歌川から栞ちゃんに電話がかかってくる。風間隊ェ…。なんでも食堂で菊地原がC級隊員のヒュースに関する噂を副作用で耳にしたらしい。さすが盗聴スキル。ちなみに前に本人に盗聴スキルと言ったらすごい嫌そうな顔をして、誤解を招くんでやめてください、と言われたし、風間さんに人聞きが悪いことを言うな、と怒られた。ていうか菊地原やばくない?三雲くんに対してデレッデレじゃない?ツンデレとしてのアイデンティティはどうした。完全に崩壊してるぞ。もやもやの正体がヒュースが目立つことによって近界民だとバレてしまうことだと気付いた三雲くんは、すぐに林藤支部長に連絡をとり、根付さんとのアポをとっていた。

「根付さんに言えば大丈夫だと思うけど、わたしもちょっと動いてみる。協力できることがあったら何でも言って」

わたしが玉狛と親しいことは、場所もわきまえず裏切り者の玉狛支部め!と掴みかかってくる三輪やまた玉狛行くのかよ〜!と大声で言ってくる出水や米屋のせいでそれなりに知れ渡っている。きっとわたしに聞いてくる人も一定数いるだろう。大体1コ下のやつらのせいだけどな。電話を終えた三雲くんにそう言うと、三雲くんは深々と頭を下げる。

「みょうじ先輩、すみませんが、よろしくお願いします」

じーん。なんて、なんていい子。わたしが飲みたいのとちがう飲み物を勝手に買って押し付けてきた挙句にふてぶてしくお願いがあるんだけど、とにやにやしながら頼んでくるやつとは大違いだった。誰とは言わないけれど。こんな可愛い後輩のためならなんでもしてしまう。最悪、ヒュースの噂なんてもっと悪目立ちする何かがあれば打ち消せるだろう。その点に関してはうちの隊ほどの適任もいない。一発ドカンとやらかせばあっという間に噂の的はうちの隊になる。絶対各所からお叱りを受けるけれど。そこはナマエさんに目立ってもらうしかない。その必要があれば、の話ではあるが。三雲くんと栞ちゃんと別れ、風間隊の隊室に向かう。

「たのもー」

扉をあけて隊室に足を踏み入れると、完全に呆れた顔をした風間さんが出迎えてくれた。

「……お前は普通に入ってくることができないのか」

「やだなー、ちょっとした冗談じゃないですか」

ひそひそと菊地原が歌川に、あの人あれで高3とかやばくない?と言っていた。お前の副作用なんてなくても聞こえる時は聞こえるんだからな。大きくため息を吐いた風間さんは、玉狛第二のことだろう、と問いかけてきた。風間隊が気付いた、というのなら、三雲くんが根付さんに会う前に話は通っているのだろう。きっと対策も既にできている。それならこれからどうするかは風間隊に聞くのが一番早い。

「東さんに協力してもらって噂の上書きをする」

「クローニンさんの親戚でトリオン能力が高いから玉狛に入るためにこっそり訓練してきた〜って感じですかね?」

「大方そんなところだ。実際は迅も絡めた設定を根付さんが考えた」

「東さんが噂のもとになれば信用度は高いですしねぇ」

詳しいことは三上に聞け、と促され、資料を手にしたみかみかに細かく説明してもらう。当然のことではあるが、この資料はすぐに廃棄するらしい。一度で覚えてくださいね、と言われて資料に目を通す。頭に叩き込んで、おっけ、と呟くと、みかみかはその場で資料を廃棄した。風間さんからわたしが来る可能性があるから残しておけ、と指示を受けていたらしい。さすが風間さん。上司の鑑。今頃三雲くんは根付さんと東さんから説明を受けているのだろう。あまり自分を責めてないといいけれど。

「ていうか菊地原はいつから三雲くんと友達になったの?」

「は?なってないけど」

「だって三雲くんにLINE教えてんじゃん。わたしにも教えてよ」

「絶対やだ」

ちょっといじめすぎたせいか、菊地原はわたしとさぁちゃんに強い警戒心を抱いている。わたしはこの典型的なツンデレ好きなんだけどなぁ。じゃあ三雲くんに聞いとくわ、と言い残してお邪魔しました、と菊地原の絶対やめて、ブロックするよ、やめて、という声を背に風間隊の隊室をあとにした。そして翌日、狙撃手合同訓練で早速噂の上書きを実行したらしい。一部のC級隊員からわたしもヒュースについて聞かれたが、昨日頭に入れた通りの対応をとった。あくまで、肯定したように見せかけてぼかす。嘘をついてはいけない。どちらかというと東さんの対応に近い返答をするように、根付さんから連絡があった。三雲くんにちょっと呆れた様子だったので、かわいいでしょう、と手放しで褒めておいた。噂の上書きについては結果は上々。根付さんと東さんとミーティングを終えた三雲くんの話を聞きながら玉狛へと足を運ぶ。いろいろ対応していただいて本当にすみません、としきりに謝る三雲くんに本当に気にしないでいいよ、と少し背伸びして頭を撫でた。三雲くんは照れくさそうにしながらもされるがままになってくれた。本当にいいこだな!玉狛に着いて、結果の報告をすると、ポニーテールがかわいい小南はこれ以上考えてもしかたないし頭を切り替えて最終戦に集中すればいいんじゃない?とこともなげに言った。まあもうできることもないしね。

「今日って晩ごはん何人?」

「この5人だけじゃない?」

遊真はゾエさんたちのところで、レイジさんは諏訪さんたちと飲み、とりまるは鈴鳴と防衛任務、迅さんとヒュースは林藤支部長たちと出かけているそうで、いつも賑やかな玉狛支部には小南と栞ちゃん、三雲くん、千佳ちゃん、わたしの5人しかいなかった。わたしもゾエさんに誘われていたのだが、三雲くんが心配だったので断った。野郎どもよりも小南と栞ちゃんと千佳ちゃんに癒されたいとかそんなのではない。ちなみにナマエさんはレイジさん、諏訪さんたちと飲んでくると言っていた。

「んじゃ今日は外食ね。あたしが奢るわ。ごはん作るのめんどくさい」

「おー太っ腹!」

「いや、だったらわたし出すよ。最年長だし」

「いいわよ。いつも遊びに来る時お菓子とか買ってきてくれてるでしょ」

わたしがなんて言っても譲る気のなさそうな小南は、肉食べに行くわよ、肉。と言いながらコートを羽織った。小南ちゃん男前過ぎて惚れそう。そうしてやってきたおなじみ寿寿苑。玉狛とくるのは珍しい気がする。二宮さんがいないならのびのび食べられるなぁ、と三雲くんを先頭に案内された席へと向かうと、そこには。

「あっ」

「お?」

「おつかれさまです……」

「奇遇だねぇ」

二宮隊御一行がいた。また二宮さんかよ……。天敵犬飼がいるのでさっと小南の後ろに隠れたのは言うまでもないが、こっちは女の子4人。果たして辻は生きて帰れるのだろうか。


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