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▼ ROUND7を観戦

玉狛に新メンバーが加わっての初めてのランク戦。玉狛によく顔を出すこともあって彼の正体は知っている。先日の大規模侵攻時の敵国、アフトクラトルの戦闘員で、現在は捕虜として玉狛に身を置いている、ヒュース。ついに敵国の捕虜まで仲間にしてしまった玉狛支部には驚いたものだけど、玉狛第二のメンバーなら納得してしまう。もともと遊真だって近界民だし。それに陽太郎が懐いているということは、悪い奴ではないだろう。玉狛第二のみんなはわたしとしては大変かわいい後輩に当たるので、晴れ舞台とあれば観戦するしかないと珍しくランク戦ブースに自主的に足を運んだのだが、偶然出水に発見され、連行される。

「なまえさんもメガネくんたちのランク戦観に来たんだろ?一緒に上で観ようぜ」

「出水おまえそれ確認してから引っ張ってもらってもいいかな」

「二宮さんもいるから」

「そろそろ会話をしよう出水くん。言葉のキャッチボールは大事だよ」

生身の運動神経と同様、野球のセンスがない出水くんはその後もわたしの話を聞くことはなかった。みんなと一緒に観戦して臨場感を感じようと思っていたのだが、まあ観れればどこでも一緒か、と諦めて溜息を吐き、出水に着いていくと、出水の言っていた通り上には二宮さんがいた。辻と一緒に。待て待て待て。出水おまえ辻がいるとは聞いてないぞ。可哀想だろ、辻が。ほらもう固まっちゃってるから。わたしを観て動きを止めた辻を怯えさせないようにせめてもの心遣いとして辻から視線を逸らす。視界のすみでそろそろと辻が動き出したのを確認した。本当ごめんって。わたしが悪いわけじゃないけど。

「やっぱりわたし下で観るよ。嵐山さん解説するって言ってたし解説席の後ろを陣取る」

「うちの犬飼も今日は解説をやっているぞ」

「ア、やっぱりここで観させてもらいますね」

解説の嵐山さんは大変魅力的だったので近くで観たかったのだが、それがつまり犬飼に近づくということであるならば泣く泣く諦めるしかないだろう。辻には本当に申し訳ないけれどここで観戦させていただくことにする。飲み物を買ってくると言う出水にわたしお茶、と言うと自分で買ってこいと言われるが、今日のTシャツイケてるね、と御世辞を言うと満更でもなさそうにわたしの分も買いに言った。ちょろい。ちなみに出水は今日も先発百中のTシャツを着ていた。絶望的にダサい。せめて上に羽織っているのがパーカーだったらまだマシだったのによりにもよってロング丈のガウンだった。まあ黒のロングコートの隊服めっちゃかっこいいって言ってたもんな。仕方ないよな。誰か出水くんに服を選んであげてほしい。太刀川隊と二宮さん以外で。ちなみに前髪がアシメになっているスタイリッシュ系イケメン辻の私服は前衛的でわたしにはちょっと難しいセンスだった。個人的に辻には襟がついたものを着ていてほしいです。二宮さん今着てるその服脱いで今すぐ辻と交換して。飲み物を買って戻ってきた出水の服装を上から下までじっくり見つめると、出水は照れたようにそんな見んなよ、と言ったが、決していい意味で見ているわけじゃないから照れるのやめてほしい。いたたまれない。残念な後輩を見ていると悲しい気持ちになってくるので、今日のランク戦について話をすることにした。

「今日は影浦隊と東隊と鈴鳴と玉狛の四ツ巴ですよね」

「……ああ。ステージ選択権は鈴鳴だ」

「最近の鈴鳴は一味ちがうから今回もなんか仕掛けてきそうですよね〜」

「え、鈴鳴何か変わったの?」

「………お前はもう少しランク戦を観ろ」

小言を言われてしまった。わたしだって場合によっては観てるよ。作戦立てる時に参考にするし。あとでログを観てランク戦ブースには足を運ばないだけだ。それにわたしが参考にするログはやはりA級のものが多いし、B級まではなかなか手が回らない。でも、遠征選抜チームのラインまであと今日を含めて2戦。遠征を目指している玉狛第二にとっては大事な一戦だし、カゲの家でお好み焼きを食べた時の話を考えると、絶賛思春期BOY絵馬も千佳ちゃんを守るために遠征を目指すのだろう。絵馬がやりたいと言うならばあれで面倒見がいいカゲも、仏のゾエさんも一緒になって気合を入れるだろうし、玉狛第二と影浦隊の点の取り合いが肝になるのではないだろうか。もちろん村上をどう攻略するかという問題もあるし、東さんをおさえるのが最低条件になるけれど。

「なまえさんは玉狛の新メンバーについて知ってんの?」

「知ってるよ」

「どんなやつ?」

「それをここで言うのはフェアじゃないでしょ」

この試合の結果次第だが、玉狛と二宮隊が当たることだって十分ありえるのだから。

「…………俺は彼と勝負しましたよ」

普段から言葉が少ないタイプではあるが、わたしが来てからさらに喋らなくなっただろう辻が、ようやく口を開いた。彼とってヒュースと?首を傾げるが、ひとつ思い当たることがあった。

「ヒュースが入隊した時のやつか。辻ちゃんもやったんだね」

「負けましたけどね」

決して近寄ってはこないし目も合わせてはくれないけれど辻がわたしと、というより女の子と会話するのは珍しいので、きっとヒュースのことが気になっているのだろう。アステロイドとバイパーの使い方をヒュースに教えるのを手伝ったので、ヒュースのトリガーセットまでわかっているし、彼は戦術に関しても秀でているようだった。トリオン量だってアフトクラトルの例の角のこともあり、千佳ちゃんまではいかないもののわたしたちトリオン量の多い射手組よりも圧倒的に多い。ボーダーのトリガーに慣れていないという一点を除いてA級のエースたちにも見劣りしない実力をわかっているだけに、苦笑して口を閉じるしかない。そんな話をしているうちに鈴鳴がステージを選択し終えた。今回は市街地D。大きな建物が多く室内戦が起こりやすいステージだった。嵐山さんがステージについて解説する。さすが嵐山さんと言うべき丁寧でわかりやすい解説だった。そして何より顔がいい。解説の嵐山准って響きだけで既にいい。ただ、狙撃手がいる鈴鳴が選ぶマップとしては違和感があった。太一の役割を捨ててまで千佳ちゃんと東さんと絵馬を封じたかったのだろうか。村上がいるのだからその決断はなくはない。カゲには狙撃が通じないわけだし、だったら絵馬を封じた方が影浦隊と戦うにはいいだろう。

「市街地Dだって。東さんと雨取ちゃん封じかな」

「ただ封じるだけならもっとあったと思うけどね。それに東さんなら」

「モールに入るだろうな」

元東隊の二宮さんが言うなら間違いないだろう。

「鈴鳴は適当なことはしないし、何か秘策でもあるんじゃないかな」

そして、転送が開始された。そこからは怒涛の展開で、鈴鳴の奇策や新戦術、ヒュースの活躍に絵馬の粘り、千佳ちゃんのとんでもメテオラ、東さんのびっくり戦術など、ひとつひとつをしっかり目に焼き付ける。結果としては玉狛の圧勝だったものの、総合としては影浦隊と同点で二位。同点の場合はシーズン開始時の順位が上の隊が上位につくので、現在の順位は二宮隊、影浦隊、玉狛第二の順になっている。

「最後の最後で影浦隊と玉狛が横並びか〜」

これ二宮さんとこの役割デカいんじゃないすか?と試合を観終わった出水が口にした。そう、過去トータルマッチングが少ない部隊と当たることになる傾向があるランク戦の中では、B級上位として二宮隊と玉狛が当たる可能性はかなり高いのだ。辻も二宮さんも特にリアクションはしていないが、犬飼がいたらまたぎゃーぎゃーうるさいのだろう。思っていたよりも真面目に解説していた犬飼が二宮隊の隊室で玉狛について話し始めるところが容易に想像できてしまった。出水は大して反応を示さない二宮さんと辻が不満らしくもっと何かないのか、と聞いていた。

「なまえさんは玉狛推しだろ?」

「当たり前じゃん。玉狛第二は全員かわいい後輩だよ。めずらしく。めずらしく全員かわいい」

「おれだってかわいい後輩だろ」

「は?」

「え?」

何を言っているのか全く理解ができなかった。玉狛第二はヒュースも含めてかわいい。ヒュースはツンツンしてるけど陽太郎というマスコットのおかげでかわいく思えてきている。ツンツンしてるように見えて割と素直だし。ただ出水、てめーはだめだ。たとえ唯我というマスコットがいたとしてもマスコット含めてかわいくない。太刀川さんもかわいくない。かわいいのは柚宇ちゃんだけだ。ただし柚宇ちゃんはわたしの親友なので太刀川隊換算には入りません。口を開いてもかわいくないし服のセンスもダサい。先輩の話を聞かない。そう言うと出水はさっき飲み物買ってきてやったじゃん、と言った。陽太郎だったらそれだけでゆるしちゃうけどな。おまえ高校生だろ甘えんな。一触即発という空気に辻がわたしに対して怯え始め、二宮さんが大きくため息を吐いた。

「………おまえらはどうなんだ?玉狛の評価は前と変わったのか?」

出水とわたしに投げかけられた質問に、出水とふたりで少し間を置く。以前、今と同じように上で二宮さんと出水と玉狛第二と那須隊、鈴鳴の試合を観戦して話したことを思い出す。玉狛第二が二宮隊、太刀川隊、そしてうちの隊に勝てると思うか、という質問に即答でそれはない、と答えたわたしたち。かわいい後輩だし、目標に向かって頑張ってほしいと思っているけれど、それとこれとは話がべつだった。だけど、今の玉狛第二ならば。

「そうすね……」

先に、出水が口を開いた。楽しそうに口が弧を描いている。

「今の玉狛第二とならけっこう面白くなりそうかな」

「まあ、こっちもちゃんとやらなきゃ勝つのは難しいでしょうね」

「……だろうな。つまりはそういうことだ」

つまり、二宮隊としても油断ならない相手になったと言いたいのだろうけど、もっと素直に言えばいいのに。二宮さんそういう態度だからなかなか友達ができないんだよ。なんかかっこつけてるからそれを声に出さずに玉狛のお祝いしてきます〜と3人に手を振ると、辻があからさまにホッとした顔をしたので、仕方ないことだとはわかっているもののとても傷ついた。


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