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▼ 玉狛でパジャマパーティー

防衛任務が終わり、いつもならば隊室でだらだらするところをそそくさと帰り支度を整え、隊員たちに、じゃ、と一言だけ残して本部を出た。小南に誘われて玉狛支部でパジャマパーティーである。わたしの強い希望もあって、今日の玉狛のご飯当番はレイジさんだそうだ。ありがとうレイジさん。お昼ご飯少なくしてお腹すかせてきました。玉狛支部に着くと、小南と陽太郎からのお出迎えがあり、栞ちゃんがいいとこのどら焼きを用意して待っていてくれた。なんだろうか、このホーム感は。わたしも手土産に持ってきたお菓子を渡し、陽太郎と雷神丸と戯れる。今日はとりまるはバイトとのことで不在らしい。

「今日って栞ちゃんも泊まれるの?」

「それがねーなまえさん…今日はどうしても外せない予定が入っちゃってるんです」

よよよ、と涙を拭う仕草をした栞ちゃんを残念だねえ、と言って撫でる。せっかくの女子会だというのに。急いでる様子の栞ちゃんは次こそはお泊りしましょうね〜と大きく手を振って帰っていく。それをお見送りしたあと、レイジさんにご飯ができたぞ、と呼ばれて食卓につくと、レイジさんの得意料理と噂の肉肉肉野菜炒めが食卓に並べられた。白米との相性が良すぎて最高だった。ちょっと食べすぎちゃったなあ、とお腹をさする。

「みょうじちゃんおっさんっぽいからそれやめたほうがいいよ」

「迅さんって実は女の子に求めるもの多いですよね」

「……ぼんち揚げ食う?」

「お腹いっぱいだって言ってるじゃないですか」

すぐ眠くなってしまうお子様陽太郎が一緒にお風呂入りたいと駄々こねるのをお風呂はひとりでゆっくり入りたい、と断ってレイジさんと先に入らせ、小南と最近のうちの隊のニュースを話す。推しの話しをするとあんたそういうのばっかりね、と冷たい目で見られたが、小南だから仕方ない。レイジさんと陽太郎がお風呂を上がったので、迅さんに先に入っておいで、と促されてお風呂をお借りする。家のお風呂より広くてのびのび入ってしまった。いいお湯だった。化粧水と乳液をつけて、髪をふきながら脱衣所を出ると、ばったり。とりまると遭遇した。わたしを見て目を見開くとりまるに、おかえりーと声をかけると、なんでいるんですか、と返ってきた。どういう意味だコラ。

「小南とパジャマパーティーなの」

「………スウェットですけど」

上から下までわたしを見たとりまるにいちゃもんをつけられる。スウェットの何が悪いんだよ。女子高生はジェラピケを着なきゃいけないルールでもあるんですかぁー?わたしはこのままコンビニにいける格好がいい。やっぱり部屋着は機能性である。迅さんもレイジさんもいるからさすがにお風呂あがりでもブラはつけているけど。とりまるくん女子高生に夢見過ぎだよ。ぽたぽたと髪から垂れる滴に、うっとうしさを覚えると、微妙な顔をしたとりまるがわたしの首にかけてあるタオルを奪ってぐしゃぐしゃとわたしの頭を拭き始める。おい乱暴だぞ!そんな攻防をしていると、ちょっと!小南の甲高い声がその場に響いた。

「なんでスウェット着てんのよ!パジャマパーティーだって言ったじゃない!」

ここにも夢見ている子がいた。とりまるをわたしから乱暴に引きはがした小南は、そのままわたしの腕を引っ張って自分の部屋に連れ込み、あれよあれよと言う内にふわふわのまさにジェラピケという感じのパジャマに着替えさせた。

「こんなこともあろうかと準備してたのよ!」

どや、とふんぞりかえる小南はかわいい。かわいいけど、どんだけパジャマパーティーに本気だよ、と突っ込まざるをえない。もこもこのパステルカラーの上下セット。下はショート丈でもこもこの靴下をセットにしてくれている。小南が着てくれよ。そう思ったものの、小南のことだからきっと自分の分も用意しているだろう。しょうがなくわたしのスウェットに別れを告げ、小南をお風呂に送りだし、小南のもこもこパジャマ(推定ジェラピケ)でお風呂お借りしましたー、と迅さんたちのいる居間に入ると、先程廊下で会ったとりまると、もともと居間にいた迅さんと洗い物をしているレイジさんがいた。

「お、女の子って感じでかわいいね〜みょうじちゃん」

「なんですかセクハラですか訴えますよ」

「いきなり当たりきついな〜」

恥ずかしげもなく褒めてくれるのは迅さんのいいところだとは思うけど、嘘くささがすごい。手を胸の前で交差してガードの姿勢をとると何もしないよ、と半目で言われた。それは迅さんの副作用に誓ってだろうか。さすがにみょうじちゃんにはね、というのはきっとわたしが迅さんの守備範囲外ということだろう。セクハラされたいわけではないけど少しイラッとした。レイジさんには髪くらい乾かしてからこい、と言われたが、今は小南が入浴中のため、ドライヤーがどこにあるのかわからない。

「お父さん拭いて」

「誰がお父さんだ」

「お父さんゴリラ拭いてください」

「明日の朝飯は抜きだな」

「ごめんなさいレイジさん!!!」

食を握られていると逆らえない。だってレイジさんのご飯はおいしい。いつもゴリラとか言ってごめんねレイジさん。ゴリラの名は荒船に継承しておくね。濡れた頭のままソファに座ってテレビを見る。

「風邪ひきますよ」

「うわ、ちょっと、とりまる乱暴だからやだ」

またとりまるがわたしのタオルを奪い、濡れている髪の毛を、先ほどとはちがう、優しい手つきで拭き始めた。そういうバイトをしているんじゃないかと疑うほどに気持ちがよかった。ついでに肩揉んでほしい。しかしその申し出は即答で断られてしまった。金取りますよ、というとりまると苦笑する迅さん。金っていくらだよ。金額によっては考慮する。

「京介の方がお金払うことになりそうだな」

「………迅さん」

「わたしは後輩からお金とったりしません」

「その分歳上に貢がせてるからね」

「二宮さんのことを言っているのであればあれは奢られてあげてるんです」

後輩たちから近寄りがたいと思われているそうでみんなで食事にも行けない二宮さんにわたしと出水が奢ってもらうという大義名分をもって付き合ってあげているのだ。時々三輪がいるといつキレだすんじゃないかとわたしがひとりでドキドキしている。ていうか毎回焼肉なんだけど。鍋がいいって言ってから5回は焼肉行ってるんだけど二宮さん鍋行く気ないでしょ。わたしだけ迅さんお手製の鍋食べちゃうよ。二宮さんについて話しているとそれまで心地よかったわたしの頭を優しく拭く手にいきなり力がこもり、ぐしゃぐしゃとこのまま乾いたら悲惨なことになりそうな乱暴な手つきに変わる。おいいきなりどうした。情緒不安定か。

「ちょ、やめろとりまる!ハゲる!」

「このくらいじゃハゲません」

「わかんないだろ!わたしの毛根がめちゃめちゃ繊細でピクミンみたいに引っこ抜かれやすかったらどうするんだよ!」

「ピクミンならいくらでも生えてきますよ」

「おまえさてはピクミンがいくら死のうと心を痛めないタイプだな」

信じられない!この冷血漢!わたしの頭を拭き続けるとりまるの手を叩くと、一発は命中したものの、二発目はかわされてわたしの頭に命中した。くそ、こいつ許さない。す、とタオルを持ったままわたしの頭から手を離したとりまるは、ぐしゃぐしゃになった頭を手でささっと直した。

「パジャマ、かわいいですね」

無表情のまま言われるから、からかわれているのかの判断がつきにくい。表情筋どこに置いてきたんだ。やっぱりレイジさんの弟子になったからだろうか。

「スウェットもあれはあれでいいと思いますけど」

なまえさんらしくて。最後の一言が余計すぎた。どういう意味だ。本当にボーダーの野郎どもはかわいくない後輩しかいないな!とりまるから距離をとって威嚇するとまるでペットにやるようにちっちっち、とお菓子を目の前で振られる。いや、釣られねぇよ。わたしのことなんだと思ってるんだよ。猛獣かよ。

「なによ、まだ髪の毛乾かしてないの?」

ようやく小南がお風呂から帰って来た。わたしが着ているのと似たもこもこのパジャマがかわいい。ドライヤーがないと言うと、しょうがないわね!とぷりぷり怒りながら洗面所までドライヤーを取りに行ってくれる。かわいいかよ。乾かしてあげるからそこ座りなさい、と小南に指示された場所に座ると、ご機嫌な小南がわたしの髪を乾かし始める。とりまるのタオルドライの20倍下手だった。本当にわたしの毛根がピクミンのように引っこ抜かれている気がする。

「ていうかとりまる、あんた今日来ないって言ってたじゃない。なんでいるのよ」

ブオオオ、というドライヤーの音にかき消されないように小南が大きな声でとりまるに尋ねる。そういえば今日バイトって聞いていたのになんでいるのだろうか。

「明日バイトで必要なものを昨日支部に忘れたので取りに来ました」

「疲れてるんだったら早く帰りなよ」

明日もバイトがある勤労少年は支部で話してるよりまず家に帰って早く寝た方がいい。わたしなりに気遣ってとりまるにそう言うと、めちゃめちゃ睨まれた。迅さんもあちゃー、というように額を押さえている。わたしは何か間違ったことを言ったのだろうか。小南がそうよそうよ、早く帰りなさいよ、と言うととりまるが大きくため息を吐いて立ちあがった。

「なまえ先輩と小南先輩のパジャマ姿見るために残ってたんですけど」

「えっ」

「すいません、嘘です」

顔を赤くして怒る小南から逃げるようにとりまるはそそくさと帰っていった。そういう嘘はよくないと思うしわたしを巻き込むのもよくないと思うの。怒り冷めやらぬ様子の小南を宥め、レイジさんと迅さんに手を振ってからお菓子と飲み物を持って小南の部屋に移動した。もうなんなのよとりまるのやつ!とまだ怒っている小南の口に持ってきたお菓子を突っ込む。途端に顔がゆるみ、機嫌が良くなる小南は本当にかわいい。わたしもお菓子をひとつつまみ、で、と切り出した。

「最近どう?」

「あんたざっくりしすぎなのよ」

「えー?女子会って言ったら恋バナでしょ恋バナ」

「なんにもないわよ!うち女子高だし…」

星華女子ってだけで世の男子高生にモテモテだと思うんだけど。小南は見た目も中身もかわいいし。いろいろ激しいけど。それに学校でなくてもボーダー内にも男性はたくさんいる。玉狛所属の小南は本部所属の人ほど関わりはないとは思うけれど、それでも出会いがないわけではないだろう。

「ボーダー内は?」

「あたしより弱いやつは嫌」

「そしたら太刀川さんかぁー」

「ちょっと!冗談じゃないわよ!!」

それにあたしの方が強い!大人しくお菓子を食べていた小南が興奮して掴みかかってくる。ベッドに倒れこみ圧し掛かってくる小南に、わー、とわざとらしく悲鳴を上げるとぼかすか叩かれた。ちょっと痛い。ごめんごめん、と謝る。わたしだって太刀川さんはどう?とか言われたら相手を再起不能にする。いくら強くても人間として無理ですわ。でも他に小南より強い人、というと迅さん、二宮さん、風間さん、当真くらいなのではないだろうか。二宮さんと当真に関してはポジションがちがうからなんとも言えないところではあるけれど。いや、割とみんなだめでは?迅さんを恋愛対象にするのはちょっといろいろしんどそうだし、二宮さんはぼっち。やはり人格に問題がある。当真は論外だ。当真なんかに小南を渡すくらいならわたしが小南を幸せにする。風間さんはなぁ。常識人ではあるけどナマエさんが片思い拗らせてるし、小南と風間さんだと付き合うってなったら相性が悪そうだ。

「とりまるは?」

「あいつ生意気すぎない?」

「ボーダーの後輩たちは割とみんな生意気だよ」

あっ、とっきー!とっきーは除く!慌てて訂正すると小南に引いた目で見られてしまった。いやだってとっきーを生意気だって言ってしまったら全人類生意気になってしまうし出水とか生意気の範疇超えるだろう。生意気大魔神か。

「なまえだってとりまると仲良いじゃない。そっちはどうなのよ」

「まあ顔は好みだよね」

途端に小南がえっと色めきだつ。小南は本当に素直でかわいいなぁ。

「でも顔で言えば嵐山さんも好み」

「准?いいじゃない。協力するわよ」

准となまえが結婚したらわたしたち親戚になるし。それはなかなかに魅力的な話ではあるが、話が飛び過ぎてやしないだろうか。とりまるも嵐山さんも鑑賞用だろう。隣に並ぶのも、ましてや付き合うとか結婚するとか恐れ多すぎて無理。本当に顔がいいって罪深いな。ていうか嵐山さんといい小南といい、どういう遺伝子をしているのだろうか。前世でどんな徳を積めばそんな美形の遺伝子をもった一族に生まれられるの?もう小南がわたしと結婚してよ〜と小南に抱きつくと、あんたそれみんなに言ってるでしょ、と冷たく突き放された。みんなには言ってない。柚宇ちゃんと今ちゃんにはよく言ってるけど。思う存分おしゃべりして、じゃあそろそろ寝ようか、と小南のベッドにふたりで潜り込む。うとうとしつつある中で、これだけは言っておかねば、と思って小南に実はね、と話しかけた。

「雷神丸って犬じゃないんだよ」

「馬鹿ねあんた。いくらあたしでもそんな嘘には騙されないんだから」

とりまると迅さんの方が信憑性が高かったらしい。地味にめちゃめちゃショックだった。


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