WT | ナノ
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -


▼ 太刀川隊とレポート

出水にめちゃめちゃ頼みこまれて、太刀川さんに既に巻き込まれているらしいナマエさんにも頼まれ、とどめとばかりに柚宇ちゃんにまでお願いされてしまっては、さすがに断るわけにもいかず。わたしはなぜか、太刀川隊の隊室で太刀川さんのため込んだレポートをやっていた。本当に、なぜ。風間さんの姿はない。ついに見放されたのだろうか。出水と唯我とナマエさんが太刀川さんのレポートをやっている図をとりあえず写真におさめた。あとでぜったい忍田本部長と蓮さんに見せてやるからな。

「なぜ…なぜこのボクがこんなことをしなくてはならないんだ…!これはもはや体罰じゃないか!弁護士を呼んでくれ!」

「唯我ぁー黙って手ぇ動かせー」

「しかし!国近先輩はゲームをしている!なぜ国近先輩だけ許されているのか!」

「国近は戦力にならん」

「どの口が言うの太刀川さん」

柚宇ちゃんはかわいいから良いんだよ。たしかに柚宇ちゃんはちょっと…ちょっとだけ……おばかさんだけども。みんながんばって〜とふわふわ笑ってるだけで力になれるからそれでいいのだ。ヒステリックに喚き立てる唯我に何かと絡み始めた太刀川さんにイライラゲージが溜まっていく。おい、これ誰のレポートだと思ってんだよ。

「ちょっと太刀川、高校生たちにも協力してもらってるんだからまじめにやってよ」

同じことを思っていたらしいナマエさんが太刀川さんを睨む。もちろん太刀川さんには効果がないようだ。かたかたと自前のノートパソコンと資料を見比べながら文章を作っていく。いやこれで太刀川さんが単位とれるのも癪なんだけど。当然わたしたちに見返りがあるんだよな。パソコンの画面から目を離して太刀川さんをじと目で見つめると、どこからか取り出した餅を食べていた太刀川さんはおまえも食う?と食べかけの餅を差し出してきた。いらん。

「ねえ、もうさ、唯我が金に物を言わせて先生買収すればいいと思うの」

「なまえさんそれ賄賂って言うんだぜ」

おまえ天才かよ…とでも言いたそうな太刀川さんを出水がばっさりと切り捨てた。いや知ってるよ。賄賂でなんとかしてもらえって言ってんだよ。太刀川さんはそうでもしなきゃ進級無理でしょ。

「大体なんでボクが太刀川さんの進級のためにお金を出さなければならないんですか!」

「うるせーなケチケチすんなよ。そのくらい持ってるんだろ」

「おいなまえそれカツアゲだからな」

「元凶は太刀川だけどね」

キーキーうるさい唯我に詰め寄ると悲鳴を上げてわたしから逃げる。そして太刀川さんにだけは言われたくないからな。カツアゲ?ちがうちがう。適材適所ってやつだよ。みんな太刀川さんが留年したら困るでしょ?レポート終わらない出席日数がやばいその他の問題が1年も引き延ばされるってことだよ。

「オラちょっとジャンプしてみろよ」

「ひいいい!!警察!警察を!出水先輩助けて下さい!!」

「なまえさん、ジャンプして音がしたってそれ所詮小銭だから落ち着こうぜ」

「そういう問題じゃない!!」

とてつもなく不毛な言い争いだという自覚はある。しかし正直もうやってらんねーって感じで、ふざけてないと暴れだしそうだった。え?わたしなんで太刀川さんのレポート手伝ってんの?だって大学生組でもなければ太刀川隊ですらないんだよ?正直好感度マイナス突っ切ってる太刀川さんのために頑張る意味。すると、それまでひとりゲームをやっていた柚宇ちゃんが、ふらふら〜とわたしの前までやってきて、落ち着きたまえ〜と抱きついてきた。アッかわいい。やわらかい。

「ほらほらなまえちゃん、嵐山さんの写メでも見て落ち着いて〜」

「嵐山さんはいついかなるときでも顔がいい……」

「おいおい顔がいい男ならおれがいるだろ」

「えっ太刀川のくせに嵐山と張り合うのはさすがに無謀じゃない?」

「おいどういう意味だミョウジ」

太刀川さんの生まれ直してこいってレベルの戯言はわたしの耳には届かない。顔がいい男は世界の宝である。柚宇ちゃんのハグと嵐山さんの御尊顔で心が癒されていくのを感じた。そんなわたしたちを見て、出水がドン引きしている。柚宇ちゃんがわたしの扱いがうまいのは今に始まったことじゃないだろうが。ボクも本当は嵐山隊に入隊するはずだったんですがね!と前髪をふぁさっとする唯我のことはその場の全員がいないもののように扱っている。金に物を言わせて入隊してるくせに何言ってやがる。

「まあ嵐山隊に入るとしたら京介だろ。顔的に」

「わかる」

「なッ!!!あの貧乏人はふさわしくない!!!ボクのような品性が足りないでしょう!!!」

「おまえのどこに品性があるんだよ

」出水の蹴りが唯我に命中する。倒れこみ、そのまま関節技をかけらている唯我は、何かととりまるに突っかかる傾向がある。同い年のボーダー隊員だというのに生まれも顔も人望も実力も何もかもが正反対であるため反発しているのだろう。ちなみに唯我がとりまるに勝っているところは、当然ながら金銭面しかない。ぎゃーぎゃーうるさい唯我を黙らせろ、と出水に合図すると出水は唯我を落としにかかる。よしたまには言うこと聞くじゃないか。しかし、あと少し、というところで太刀川さんが止めに入った。

「おまえらな、今はひとりでも人手が欲しいんだ。たとえ唯我でも」

「ていうかみんなちゃんと手を動かしなよ!太刀川も含め!私しかやってないよ!」

どこまでも自分のことしか考えてない太刀川さんと、もう誰も真面目にレポートなんてやっていないことに怒るナマエさん。いやだからなんでみんな素直に手伝ってんだよ。自分でやらせろよ。出水に危うく落とされるところだった唯我がけほけほと咳をしながらわたしを見た。

「みょうじ先輩もいつまでも貧乏人と仲良くしていると貧乏がうつりますよ」

「小学生かよ…」

完全に小学生のいじめっこの発言だった。え?こいつもう高校生じゃないの?高校生の口から出る発言じゃなさ過ぎてびっくりしたんだけど。しかし、これはもしかしなくてもチャンスなのではないだろうか。

「たしかに…とりまるにはこの太刀川さんのレポートを全部やるなんてことはできないよね……」

視線を逸らしてわざとらしくそう言ったわたしに、出水が乗っかる。

「そうだな〜さすがの京介でもこの量のレポートをひとりではな〜」

そこでわたしと出水の思惑がわかったらしいナマエさんと太刀川さんも唯我ととりまるをわざとらしく比べ始める。いや、太刀川さんは自分でやれよ。しかし、唯我もおだてりゃ木に登る。自信満々の様子の唯我が突然立ち上がり、高らかに宣言する。

「あの貧乏人よりもボクの方が優れていることを証明してみせましょう!」

わー、とやる気のない拍手をした唯我以外の全員は、じゃ、よろしく、とだけ言い残して太刀川隊の隊室を出る。絡まれたら困るので柚宇ちゃんと一緒にうちの隊室でゲームをしよう。ランク戦ブースに向かうという太刀川さんと出水とナマエさんと別れて柚宇ちゃんと思う存分ゲームをした。いやだから太刀川さんはレポートやれって。唯我がほとんど書いた太刀川さんのレポートは全部やり直しになったらしい。そして匿名希望からの写真の提供により高校生たちにレポートを書かせたことが判明した太刀川さんは忍田本部長にめちゃめちゃ怒られたそうだ。ざまあみろ。


[ back to top ]