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▼ 交際がバレる

とりまると付き合い始めて、うちの隊の面々、今ちゃんと柚宇ちゃんに報告をしてから2週間が経過した。今のところ、報告した人たち以外にとりまるとの交際が広まってはいないようだ。大学生になったわたしと高校2年生のとりまるでは外聞がよろしくないのでは?と無駄に勘ぐってしまっているので、今の状況はありがたかった。そもそも、とりまるが本部に来ない限りボーダー隊員の前で顔を合わせることもそうないし、交際を報告した人が広めなければ広まるはずもないのだが。なんて、今の今まで考えていたのだけれど。そんなわたしを嘲笑うように、陽介がやばい、と連れてこられたラウンジには元凶の米屋、わたしを連れてきた出水、そして荒船と犬飼、くまちゃん、オサノちゃん、とりまる、笹森、半崎、小荒井がいた。なんだこの大集合は。

「それで、米屋の何がやばいの」

「頭」

「それはもう手遅れだよ」

一言も喋らない屍のような米屋をよそに、事情を把握している出水が説明をする。どうやら、米屋の成績が余りにも悪いらしく、次のテストで結果を出さなければ大学推薦をもらえないらしい。えっ。太刀川さんでももらえたボーダー推薦を?こいつやばいな、という目で米屋を見ると、地の底を這うような声でたすけて…と言われる。

「三輪と奈良坂は?」

「見放された」

「……蓮さん」

「陽介の方がギブアップ」

なんでも蓮さんに説明してもらっても全然理解できないことに絶望していったらしい。三輪隊はそこそこ賢い連中が集まっていたはずなのだけど、それでも救いようがない頭をしているのか。そこで集められたのがうちの代で進学校組の荒船と犬飼、そして体育はできないけど成績はいいわたしだった。ついでに勉強見てもらおうぜ、と高校生組を集めた結果こうなったらしい。米屋が荒船監視の下やらされている問題集を覗き込み、ため息を吐いた。

「諦めも肝心だよ」

「いやいや、見捨てないでなまえさん!」

腕を引っ張られ半泣きの米屋に縋りつかれる。自業自得だろ。個人ランク戦ばっかやってるからだよ。荒船の説明はとても理論的で、馬鹿には難しすぎるらしい。しっかりしろよ荒船メソッド。もっとかみ砕いて説明してくれ、と言う米屋に再び大きくため息を吐いて隣に座る。どこからわからないのか確認していくと、米屋の頭は中学1年生で止まっていた。授業中はほとんど寝ているらしい。わたしもギブアップしたいが米屋が離してくれない。

「なまえ先輩、こっちも教えてもらえますか」

同い年の連中とテーブルを囲んで勉強していたとりまるが米屋をわたしから引きはがし、高校2年生組が待つテーブルへと誘導する。米屋には再び鬼教官荒船がついた。自分のメソッドが通用しないことが悔しいらしい。先程の米屋を見たら2年生たちは全然話が通じそうだった。自分である程度頑張って、わからないことを聞いてくるスタンスだ。小荒井や半崎がわからないことを聞いてきても、大体わたしの代わりにとりまるが教えてくれるから、わたしここにいる意味あるかな、というレベルである。その一連の流れを眺めていた米屋以外の高校3年生組を担当していた犬飼が不穏な笑みを浮かべて近づいてきた。

「ねえ、もしかしてふたり、付き合い始めた?」

ぴしり。わたしの動きが止まった。そしてその場にいた全員の視線がわたしに集中する。ふたり、とはわたしと誰を指しているのかを測りかねているようだ。なんでだ。なんでわかったんだ。本当に妖怪なんじゃないのかコイツ。今年のバレンタインの頃から犬飼にはわたしがとりまるのことを好きだとバレていた節があるが、どうして今ので付き合い始めたことがわかるのか。

「……だれとだれが?」

いち早く出水が呟く。状況がうまく飲み込めていない様子だ。

「だから、なまえちゃんと烏丸くん」

今度は視線がわたしからとりまるに動く。交互にわたしたちの間を動く視線にいたたまれなくなってきた。とりまるも何も言わないのでそのまま黙っていると、出水が、いや、ないだろ。と声に出した。

「だって京介っすよ?学校イチモテる男がなんでよりによってなまえさんと付き合うんすか。それ本当だったら絶対なまえさん遊ばれてるって」

無礼ここに極まれり。あまりの言い様にわたしの目が据わる。しかし、否定できないのが悲しいところであった。実際にわたしもそう思っていたし、告白された時も、当然のようにそのあとにいつものすみません、嘘です、とついてくるものだと思うくらいにはとりまるがわたしを好きになるなんてありえないことだった。

「いやいやどう見ても烏丸くんの方がなまえちゃんのこと好きでしょ。ずっと前からだよね」

「犬飼ちょっと黙って」

犬飼は妖怪。これで確定だ。そして今まで驚きで口をパクパクさせていたくまちゃんがわたしに飛びついてきた。

「なまえさんなんで黙ってたんですか!?え!?いつから!!玲は知ってるんですか!?」

「く、くまちゃん落ち着いて……」

勢いに押されて据わっていた椅子が倒れそうになると、すかさずとりまるが支えてくれる。それを見て出水と、つい先ほどまで荒船にしごかれて死んでいた米屋が世界の終わりのような顔をした。くまちゃんが玲は、玲は、と、同じバイパー使いとして仲よくしている那須ちゃんの名前を繰り返すので、どうしたものかと思っていると、そんなわたしを見てとりまるが口を開いた。

「俺が告白して、一か月前から付き合ってます」

え、言うの?思わずとりまるを二度見したが、そこからは地獄絵図のようだった。とりまるの肩を掴んで揺さぶりながら正気に戻れ、と言い続ける出水と米屋、動揺のあまり諏訪さんに電話をかけて報告する笹森、オサノちゃんも驚きからか飴を落とし、荒船も驚いたゴリラのような顔をしていた。半崎はそんな状況を見てダルいっすわー、と呟いたので心の中で大いに同意した。そんな中、犬飼がにやにやしながら近づいてくる。

「よかったねえ、貰い手があって」

「犬飼はほんと黙って」

「え〜?本当はうれしいくせに〜」

「ほんとに黙って!!」

犬飼から離れるように席を立つと、さらににやにやしながら追いかけてくる。未だに出水に肩を揺さぶられ続けているとりまるが迷惑そうに出水の手を振り払っているのが視界に入った。

「ていうかおまえら勉強しろよ……」

「いやできるわけねえじゃん」

「いやいや米屋が一番勉強しなきゃでしょ」

「なまえさんのせいだろ」

小荒井が米屋に同意するように大きく頷いている。わたしじゃなくない?犬飼じゃない?とりまるに振り払われて行き場のなくなった出水もこっちに来る。頼むから来んな。なんで黙ってたんだよ!と詰め寄ってくる出水に辟易としていると、とりまるがわたしと出水の間に身体をはさみ、わたしと出水の間に距離ができる。

「出水先輩、近いです」

わたしとの距離をとりまるに指摘されたのが衝撃だったらしい出水はそのままフラフラとラウンジのソファに倒れこんだ。もうこれ以上は勉強もできないだろう、と早々に帰り支度をして、犬飼に中指を立ててからとりまると一緒に本部を後にした。その日のうちにゾエさんや村上からおめでとう、とLINEがきたし、翌日には噂話に疎いはずの風間さんからも烏丸と付き合っているらしいな、と言われた。挙句の果てに嵐山さんにいつもの爽やかな笑顔の一段上の嬉しそうな笑顔で、おめでとう!と力強く言われた時には、その後ろの木虎の視線も含めて死にたくなった。米屋は当然のことながらやはりテストはだめだったらしく、先生に泣きついてなんとか推薦をもらったそうだ。



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