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▼ 玉狛第二と初対面

先日三雲くんの前でとんだ失態を見せてしまったため、また改めて、ということでバイトのないらしいとりまるを捕まえて、自分のトリガーをしっかり確認して邪魔の入らない玉狛支部まで学校帰りに足を運ぶことにした。最近は超迷惑なイレギュラーゲートの発生やわたしの大好きなゲームが発売したこともあり、なかなか玉狛を訪れる機会がなく、久しぶりだなあ、と思いながらとりまるに続いて玉狛支部の中に入ると、わたしの記憶にあるよりも人が増えていた。あれ、三雲くんのほかに知らない子がふたりもいるぞ。ちっちゃいぞ。

「なまえ先輩は修以外は初対面ですよね」

そうしてとりまるに紹介されたのが、小南の弟子という白髪の少年、空閑遊真くんとレイジさんの弟子という雨取千佳ちゃんだった。

「この人は俺の高校の先輩で本部所属のA級部隊の隊長のみょうじなまえ先輩」

「ふむ、ヨロシクオネガイシマス、なまえセンパイ」

「よ、よろしくお願いします…!」

かわいい。なんだこのふたり、ちっちゃくてとてもかわいい。撫でくり回したい。遊真くんが小南の弟子ということは、もしかしなくてもすごく強いのではないだろうか。弱い子を小南が相手するとは思えないし。そして千佳ちゃんがレイジさんの弟子なんて、諏訪さんあたりに身長差がやばすぎると、元祖ゴリラのレイジさんが批難されかねないのでは。てっきりふたりとも小学生だと思っていたのだが、どうやら遊真くんは三雲くんと同い年、千佳ちゃんも中学生とのことである。ごめん、小学生だと思って名前で呼んでた。ごめんね、と誤ると、遊真でいいよ、となんとご本人から呼び捨ての許可をいただいてしまった。わたしの中でおいしいご飯が食べられる場所だった玉狛支部が、一気に癒しの空間へとステップアップした。この空間のなかではいかにゴリラといえど微笑んでしまうのではないだろうか。

「お、みょうじちゃん来てたのか。いらっしゃい」

自室でぼんち揚げでも食べていたのだろうか、迅さんが階段を下りてくる。お邪魔してまーす、と一声かけると、陽太郎が会いたがってたよ、と言われる。どうやら今はお昼寝中らしい。さすがお子様。

「ちなみに今日のご飯担当は誰ですか」

「小南」

「カレーかあああ」

「俺が作りましょうか」

「レイジさんがいい」

小南のカレー美味しいんだけどね?あの子カレーしか作れないからさ?せっかく玉狛に来たならレイジさんのご飯食べたいじゃん。カレーに嘆くわたしにとりまるがしてきた提案を一蹴すると、見るからにとりまるのテンションが下がった。なんかごめん。

「レイジさんのご飯はおいしいからな!」

「わたしもそう思います」

「お?君たちイケる口だねえ」

「みょうじちゃんおっさんくさいよ」

三雲くんがテンションについていけないのか、冷や汗を流してこちらを見ていることに気づき、おっと、と三雲くんを手招きした。今日の目的はそもそも三雲くんにちょっと射手の手ほどきをすることだった。まだ栞ちゃんが返ってきてないけれど、仮想空間を使用してもいいだろうか。窺うように迅さんを見ると、事前に宇佐美に準備してもらってある、とのこと。さすが。さすが実力派エリート。

「おれも見ててもいい?」

「いいよ〜」

「……すみません、宜しくお願いします」

「いえいえ。この間のお詫びだから」

栞ちゃんが事前に用意をしてくれていた空間にトリオン体になって入り、三雲くんと向き合う。お先どうぞ、と促すと、真っすぐにレイガストをかまえて突っ込んでくる。それをシールドで防ぐと、今度はアステロイドを出したので、こちらもアステロイドを出して相殺する。相殺といっても、三雲くんはトリオン量に恵まれていないらしく、そもそもの火力がちがい過ぎてわたしのアステロイドが三雲くんのアステロイドを飲み込む形だった。とりあえず大体の実力はわかった。真っ先にわたしが紹介されたのはわからなくはない。アステロイドのみで火力のゴリ押しでも勝つのは容易いとは思うが、それでは三雲くんの自信がなくなるだけだ。もともと自分の分をわきまえている様子の子だからこそ、少し小手先の技を見せて倒した方がいいだろう。そう判断して、メテオラを足元に打ち込んで、距離をとる。そして両手にバイパーを出して、多方面から三雲くんを攻撃した。防ぎきることのできなかった三雲くんはそのままベイルアウトする。仮想訓練室を出て、少しだけ落ち込んだ様子の三雲くんに近づく。

「射手は素直じゃやれないよ」

先日やたらと騒ぎ立てる周りが気になって話を聞いたところ、三雲くんは風間さんと引き分けたらしい。この実力で風間さんと引き分けたのなら、ちゃんと考えて戦える子なのだろう。射手というポジション的にも、ひとりで敵を倒して活躍することは難しい。少なくとも三雲くんのトリオン量では相当厳しいだろう。だったら、考えなければ。実力差があっても相手を圧倒的不利に追い込む方法を。

「なまえセンパイ、かなり強いね」

「そんなことはないけどね」

タイマンを張ったらボーダーにはわたしよりよっぽど強いひとたちがたくさんいる。弱くはないけど強いつもりもない。そう言うと、遊真は、へえ、嘘じゃないんだ、と呟いた。それに違和感を覚えて、迅さんを見ると、嘘を見抜く副作用なのだと教えてくれる。それはまた難儀な。

「ついでに言うと、遊真は近界民だよ」

「迅さんそれついでに言うことじゃないよ」

つい突っ込んでしまうような、とんだカミングアウトだった。三雲くんが冷や汗をかきながら、迅さん!と声を荒げた。そりゃ近界民と戦うボーダーの中に近界民を入れるのは問題になる可能性があるもんね。おもに三輪とか。対する迅さんは冷静な様子で、大丈夫、と口にした。

「みょうじちゃんは近界民とかに抵抗ないから。むしろ協力してくれるはずだ」

おれの副作用がそう言ってる、と副作用のしんどさで言ったら他の追随を許さない迅さんが言えば説得力が他とは段違いだった。

「まあ、正直近界民だろうが人間だろうが要は人間性だと思うけどね」

「それも嘘じゃない」

「ほらな」

何やら込み入った事情があるらしい遊真の頭を撫でると、次はおれとも勝負してよ、と言うので、小南がいいって言ったらね、と言うと、おそらくそろそろ学校から帰ってくるであろう小南を出迎えに部屋を出て行った。素直でとてもかわいい。近界民だろうとほかのくそ生意気な後輩たちよりもよっぽどかわいいと思う。

「みょうじ先輩、もう一本お願いします!」

そんな遊真を見て気合が入ったらしい三雲くんに頼まれたので相手をすると、とりまるがご飯の時間だと呼びに来るまでずっと付き合わされた。普段こんなにやらないからわたしのメンタルの削れっぷりがやばい。へろへろになりながら当然のように食卓につくと、その日の玉狛のご飯はやっぱりカレーだった。いいお嫁さんになれるね、と冗談のつもりで言うと、小南が本気で喜んだので嘘だとは言えなかった。遊真もその時ばかりを空気を読んで、わたしの嘘を指摘しなかった。


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