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▼ 生駒隊と食堂

「なまえちゃん先輩って呼び方えらいカワイイですよね」

「いきなりどうしたの隠岐。イコさんのマネ?」

お腹がすいたのでご飯を食べようと重い腰を上げ、ずりずりとこたつを這い出てだらだらと食堂への通路を歩いていると、室内なのにサンバイザーをつけた男、隠岐が現れた。隠岐の所属する生駒隊といえば、隊長のイコさんのイメージが圧倒的に強い。女の子なら誰でもカワイイカワイイ言っているカメラ目線のイコさんは、ガールズチームである我が隊には当然絡みにくるし、全員を褒めちぎってキメ顔してから帰っていく。おかげでりっちゃんはあの人苦手です、と渋い顔をするようになってしまった。うちのシャイガールを脅かすのやめてください。わたし的には生駒隊は実は芸人なのではないかと思っているところがあるのだが、その中で最も顔がいい隠岐は、生駒隊の中でも彼女持ちなのではないかと疑われているらしい。1度に10人の女の話を聞きわけたとか、赤い服を着た女を追いかけて時速300qで走ったとかいう噂を聞いたことがあるから顔がいいだけでやべえ奴という印象である。まあそんな隠岐がとりあえず女の子を見たら褒める習性があるイコさんのマネをし出したら本気にしてしまう子が出てしまうかもしれない、と危惧して顔を顰めると、隠岐は笑ってちゃいます、と否定した。

「なまえさんにぴったりですし、フレンドリーな感じするやないですか」

「ぴったりって……わたしをそう呼ぶの緑川だけなんだけど」

フレンドリーと言うよりもやつはよくわからないうちに勝手に懐いてきた印象である。緑川だからもういいや、と許しているのであって、出水が緑川のマネをして同じように呼んできた時はキモイ、と返事をしてやった。繊細なお年頃の男子高校生にキモイって言うなとか喚いていたが、キモイものはキモイので仕方がない。緑川に許されても出水には許されないこともある。

「おれも呼んでいいですか?なまえちゃん先輩って」

「孕みそうだから嫌」

「さすがにそれはないやろ」

おかしそうに隠岐が笑った。くそ、顔がいい。しかしわたしをなまえちゃん先輩と呼ぶ隠岐はどう考えてもR指定がかかりそうなので断固拒否する姿勢は崩さない。

「おー。隠岐、遅かったやないか」

呼び方については早々に諦めて次々に違う話題を振ってくる隠岐と話しながら食堂に向かうと、入り口に近い席にそれぞれ料理を食べ始めている生駒隊がいた。マリオちゃんだけいないけど、まあね、あの子も照れ屋だからね。

「なんや、みょうじとデートでもしとったんか」

「実はそうなんです」

「隠岐おまえちょっと顔がいいからって許される冗談と許されない冗談があるからな」

水上の冗談に冗談と判断しにくいマジトーンで返答した隠岐のサンバイザーを思い切りおろす。すんません、と苦笑しながらサンバイザーを一回外してまた付けなおしているが、ここは室内である。もういっそ外せよ。隠岐は生駒隊で食べるみたいだし、じゃ、と手を振って立ち去ろうとすると、がし、と隠岐に腕を掴まれる。

「なまえさんも一緒に食べません?」

「いやさすがにそこまで図太くないだけど」

「なまえちゃん今日もカワイイなぁ」

「ほう。詳しく話を聞こうじゃないか」

おだてられて悪い気がする人間はいるのだろうか。誰にでも言っているのを知っているが、さすがに食堂ではゴーグルをつけていないイコさんに、しょうがなく生駒隊の集まったその席に腰を下ろした。ちょろすぎやろ、と水上が言っていたのについては後ほどじっくり話し合いたい。

「なまえさん何食べます?俺行ってきますよって」

「なんや隠岐、またポイント稼ぎか!」

「オレ!オレ行きます!」

モテる男(推定)の隠岐がわたしの分も食事を取ってきてくれるというハイレベルな気づかいを見せたことにより、イコさんと南沢が騒ぎ始める。ノリで座ったのはいいもののうるせーな。既に若干後悔しつつあった。

「なまえちゃんに俺のオススメ教えたるわ」

「え、わたしオムライスが…」

「ナスカレー!」

ででん、とキメ顔をしたイコさんには申し訳ないが、わたしの今の気分はオムライスだし、カレーは甘口しか食べられない。その上ナスは嫌いである。ナス食べられない、と言うとイコさんは衝撃的な顔をしたあと、ナス食べられない女の子ってカワイイな!と力強く叫んだ。おすすめなんじゃなかったのかよ。じゃああれが、これが、と色々おすすめしてくるイコさんだが、わたしはオムライスが食べたい。どんなにおすすめされたところでそこを曲げるつもりはなかった。すると、ことん、とわたしの前に出来たてのオムライスが置かれる。しかもふわとろのデミグラスソースだった。えええ。なぜこんなにピンポイントでわたしの食べたいものを。見上げると、わたしがイコさんに捕まっている間に本当に注文に行ってくれたらしい隠岐の姿。

「これでええんですよね?」

「なんでわかったの…」

「さっきオムライス言うてましたし」

イコさんにまったく聞いてもらえなかったやつな。これは本格的に一度に10人の女の声を聞き分けたという噂を信じてしまいそうだ。ありがとう、と言うと俺が誘ったんで、と返ってくる。デキる男だった。室内でサンバイザーつけてることをずっと不審に思っててごめん。それもひとつの個性だよね。生駒隊ってキャラ濃いしほくろだけじゃ限界あるよねわかる。なんかもういっそ嫌みやな…と呟く水上にモテたいなら見習いなよ、と言うとイコさんと南沢が食いついてきた。そんなにモテたいなら隠岐とかとりまるとかを見習いなよ。顔面のレベルがあるから厳しいかもしれないけど。ちなみに嵐山さんは見習おうとしても無理なので無謀なことをしてはいけない。死ぬぞ。嵐山准が嵐山准たるには天性の嵐山准が必要なのだ。何を言っているのかわからないとは思うが、要するに嵐山さんを目指すのは外見だけでも内面だけでもまず無理ですよってことをわたしは言いたい。ぱくり、とスプーンですくったオムライスを口に入れる。うん、おいしい。食べている間も休みなく喋りつづける生駒隊に、よく会話続くなぁ、と感心してしまった。おもにイコさんだけど。食堂のこのメニューがウマイ。あの子がカワイイ、あの人もカワイイ。じゃあ誰が一番カワイイと思うの、と聞いてみたいレベルである。

「イコさんってそればっかだよね」

「隊室でもあんな感じやで」

「ちなみに水上的に一番カワイイのは?」

「サーヤさん」

わかる、としか言えなかった。さぁちゃんはかわいい。顔面偏差値の高いボーダーの中でも超かわいい。ただ残念ながら水上にあげる予定はまったくない。

「サーヤちゃんかわいいよな!でも律ちゃんもカワイイやろ?」

「りっちゃん最近イコさん怖がってるからほどほどにしてね」

ぶは、と水上が噴き出した。残念ながらイコさんの愛情は大体一方通行である。いやいい人なのは間違いないんだけどね。致命的なほどにがっつきすぎだよね。

「なまえさんとこはガールズチームやけど、イコさんは誰が一番タイプなんです?」

おい本人の前でそういうこと言うのやめろ。なるべく聞かなかったことにしようと思って無心でオムライスを食す。そんな危険な話を切り出した隠岐が、ちなみに俺はなまえさんカワイイと思いますよ、と胡散臭い笑顔で言ってくる。さっきのオムライスの件で上がった好感度が急激に下がっているのに気付いてほしい。デキる男の称号は速攻で取り下げた。やはりわたしにはとっきーしかいない。隠岐に質問された当人であるイコさんは、何言うとるん、と至極不思議そうに隠岐を見たあと、腕を組んで叫んだ。

「みんなカワイイやろ!!!」

ドーン!と効果音が聞こえそうなドヤ顔に、あ、うん。とオムライスの最後の一口を詰め込んだ。B級の上位グループって変な隊多いよな。


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