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▼ 烏丸はマメ

付き合ってみてわかったことではあるが、とりまるはかなりマメな男だった。防衛任務と掛け持ちしているバイトだけでも時間なんてないはずなのに、弟子である三雲くんの面倒も見ている。わたしだったらとっくに投げ出すレベルだ。それなのに、毎日わたしに何かしら連絡をしてきて、都合がつけば電話もかけてくる。マメというか、もはや超人なのではないだろうか。

「俺がそうしないとなまえ先輩と話もできないじゃないですか」

今日は夜の防衛任務もなく、とりまるもバイトが早く終わったようで、お風呂を終えて寝る前にのんびりしていたらバイトの帰り道と思われるとりまるから電話がかかってきた。

「じゃあ、なまえ先輩がしてくれるんですか?毎日連絡してくれて、俺のスケジュールを確認して電話を してくれるんですか」

「なんでそんなキレてんの……」

結論から言えば間違いなくわたしは連絡しない。自信がある。わたしが大学生になって、学校が別になってしまったからとりまるとたまたま会う、なんてこともなく、当然ボーダーでも本部と玉狛ではしょっちゅう顔を合わせることはない。会おうと思わなければ会えないし、話そうとしなければ話せない。とりまるがマメに連絡をしてくれて、会おうと努力してくれているから、わたしは特別さみしいとか、そういうことを思わないでいられるのだろう。

「大変だって思わないの?」

「思わないですよ。俺がしたくてしてるんで」

大体、なまえ先輩は俺と連絡とらなくても平気でしょう。否定はできない。大学もようやく慣れてきたところで、ボーダーに行けば 馬鹿騒ぎして、正直もともとそこまで会っていたわけでもないとりまるに会えなくても、話せなくても、そこまでの痛手にはならないだろう。たぶん。

「俺がなまえ先輩と話したいんです。その日あったこととか、思ったこととか、なんでもいいんで」

「じゃあ最近のわたしの推しについて」

「他に話せることはないんですか」

付き合うようになってから本当に歯に衣着せなくなったこいつ。いつもいつもストレートに剛速球投げてきやがって。恥ずかしくなって誤魔化すようにふざけたら、ちょっとだけ声が冷たくなった。きっと無表情ながらも呆れた顔をしているのだろう。バイト先から家まで歩いているはずのとりまるの姿を思い浮かべて、少し、ほんの少しとりまるに会いたくなった。

「昨日、買い物に行った って言ってましたよね」

「あぁ、うん。柚宇ちゃんと今ちゃんと行ってきた。女子らしくガレット食べてきた」

「へえ。美味かったですか?」

「女子力を補充できた感じ」

「……なんですかそれ」

電話口でちょっとおかしそうに息を吐き出す音が聞こえる。本当は、とりまると電話するのは少し苦手だ。耳元で声を聞くと、いつもよりずっと近く感じてしまう。おいしかったよ、と素直に言うと、じゃあ今度俺が作りますよ、ガレット。というとりまるにおまえそんなものも作れんの!?と思わず声を荒げた。さすがなんでもスマートにこなす男前はちがう。ガレットが作れるイケメンってそれだけでなんか本を出せそうだ。話を聞いたらカフェのバイトで作り方を教えてもらったらしい。ハワイで親父に教わったレ ベルで万能だな、バイトの経験。ふと、昨日買い物をしたお店のショッパーが目に入り、そういえば、と漏らす。

「勝負下着を買わされた」

「…………は?」

「柚宇ちゃんたちがいざという時のためにって」

いざという時って言われてもねえ〜とおちゃらけたように言うと、電話のむこうのとりまるは黙り込んでしまった。黙られたらわたしが恥ずかしいじゃないか。柚宇ちゃんも今ちゃんも、8割悪ふざけだった。ふざけて紐パンとかTバックとか持ってくる柚宇ちゃんと、とりまるの好みの下着を買おうと躍起になる今ちゃん。当事者のはずのわたしが一番置いてけぼりだったのだ。その様子をとりまるに話すと、ガン、と何かをぶつけるような音が電話の向こうから聞こえた。

「……大丈夫?」

「……………大丈夫です」

触れない方がいいのだろうか。下着の話に食いついて騒ぐのなんて出水と米屋と佐鳥くらいのものだと思っていたのだが、とりまるも案外ちゃんと男の子だったということだろう。

「どんなものを買ったんですか?」

「え?そこ聞くの?」

「聞きますよ。だって、俺のためなんですよね?」

今度はわたしが黙り込む番だった。まあ他に見せる相手もいないけれど、とりまるのためにこんな下着買ったよ!と本人に報告できるほど羞恥心は捨ててないし、買った下着を着て見せるつもりも今はまだない。まさか、ちょっとからかいすぎた報復だろうか。そういうことなら先輩として負けてはいられない。

「逆にとりまるはどんなの着てほしいの」

「言ったら着てくれるんですか?」

「要検討」

「じゃあ、なまえ先輩に着てほしいのを考えておきますね」

なんだかわたしが辱められただけのような気がしなくもないけれど、ここでぎゃーぎゃー怒ったところでのれんに腕押しなのは言うまでもない。はいはい、と適当に返事をすると、家につきました、とりまるが口にした。明日も学校だろうし、勤労少年は早く寝るに限るだろう。

「……ん。じゃあ早く寝なよ」

「また明日、連絡します」

そんなつもりはなかったけれど、無意識に少し名残惜しい声を出してしまったのだろうか。聞いていて恥ずかしくなるような優しい声だった。本当、慣れない。はー、と枕に顔をうずめてからもう一度スマホを見ると、おやすみなさい、ととりまるからLINEが入っていた。明日じゃなかったのかよ。世のカレカノは、本当にこんなやりとりを続 けているのだろうか。おやすみ、という好きなアニメのスタンプを返して、スマホの画面を消す。次の日も、その次の日も、マメな男からの連絡は続いたけれど、それにわたしが慣れるまであとどのくらいかかるのだろうか。それとも、わたしがとりまるに会えなくても平気じゃなくなる方が先なのだろうか。


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