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▼ 嵐山隊とごはん

「なまえ先輩じゃないですかー!」

「うわ、佐鳥じゃん」

「うわ!?うわって言いました!?」

そろそろ帰ろうかな〜と思って本部を歩いていると、佐鳥が駆け寄ってきた。やかましいのに見つかったという気持ちでいっぱいだ。同じ高校の後輩で、全ての女の子が好きだと公言する佐鳥は女の子の例にもれないらしいわたしにもよく絡んでくる。かわいい後輩であるはずなのだが、佐鳥の人間性というか、ちょこちょこイラッとくるところがあるというか、年々わたしのなかで扱いが雑になっている男である。今帰りですか、と問いかけてくる佐鳥に、そうだよ、と返すと、突如腕を掴まれる。

「これから嵐山隊みんなで飯食いに行くんですけど、なまえ先輩も一緒に行きましょ」

おい待て。疑問形になっていない。そのキメ顔やめろ。どう頑張ったっておまえは三枚目だ。ご飯に行くのが嫌なわけじゃない。嵐山さんの顔は見てるだけで幸せになれるし、とっきーはよくできた後輩だから大好きだ。綾辻ちゃんもかわいい。佐鳥だってうざいけど嫌いなわけではない。ただ問題は、あとひとりである。ほぼ初対面くらいの時期から何故か木虎に嫌われまくっているわたしは、顔を合わせるたびにキッツイ言葉を浴びせられ続けていた。品行方正な木虎から見たらそりゃうちの隊はふざけてるようにしか見えないのかもしれないけれど、A級の座を死守できる程度の実力はあるし仕事もちゃんとやっているつもりなのだが。やっぱり入隊当初に仲良くなった小南の影響もあってとりまるとよく話すのが問題なのだろうか。交友関係についてはどうしようもないじゃないか。

「いやー、いきなりお邪魔するのもアレだからわたしは今回は遠慮…」

「嵐山さんが最近なまえ先輩を見ないなって心配してたんで〜」

「アッ。いくいく。ぜったいいく」

我ながらチョロすぎる。でもイケメンの嵐山さんに心配されてるなら行くしかない。心配ないよ嵐山さん!って言いに行かなければ。まあそもそも、本部に来ても隊室にこもりがちなわたしと広報の仕事もあって忙しい嵐山隊ではなかなか会えないのは仕方ないと思うのだけれど。だからってアクティブに本部内をうろつこうとは思わないのでしばらく心配されないくらいの嵐山准を補給しよう。わたしがいたら気分を害するであろう木虎には平謝りをする所存である。

「みょうじじゃないか!」

佐鳥に連れられて嵐山隊の隊室に入ってすぐ、嵐山さんが輝く笑顔で近づいてきた。あまりの眩しさに、わたしは灰になるかもしれない、と頭に過ぎる。

「どうも、なまえさん」

「なまえさんこんにちは〜」

「こんにちは…。佐鳥に連行されてきました」

「そうか!じゃあみょうじも俺達と一緒に食事にいこう」

「ア、ハイ」

とっきーと嵐山さん、綾辻ちゃんの歓迎ムードの中、木虎の視線が突き刺さり続けている。あなたどういう神経していれば一緒に食事にいこうなんて思えるんですか、とその表情が如実に語っていた。既にちょっと心が折れそうだ。嵐山さんたちと一緒に嵐山隊の行きつけだという半個室のイタリアンのお店に入る。え、なにこれ。嵐山隊はいつもこんなお洒落なところで食べてるの?ちょこちょこ焼肉とか行ってるのも知っているけど、やはり広報担当としては人目につかない方が落ち着くのだろう。二宮さーん!二宮さんこそこういうお店に行くイメージあるから焼肉卒業しよー!初めてのお店にちょっと落ち着かないわたしを見て、隣に座ったとっきーがおすすめを教えてくれる。さすができる男。

「クリームソースのパスタならこのあたりがおいしいですよ」

「え、なんでとっきーわたしがクリームソース好きなの知ってるの?」

返事は返ってこなかった。きっとわたしが本部や学校で騒いでいるのを耳にしたのだろう。それがあまりの醜態だったから黙っていてくれているのだ、と自己完結する。これもとっきーへの信頼でなせる技。とっきーがおすすめしてくれたパスタに即決定すると、嵐山さんがわたしの真正面でみょうじと充は仲がいいな!と笑った。イケメンが過ぎる。

「なまえ先輩、この間根付さんに怒られてましたよね!」

「ごめんいつの話?」

心当たりがちょこちょこあって特定ができなかった。根付さんは前からうちの隊に対して厳しく、ちょっと問題を起こすとボーダーのイメージがどうたらと説教を始めるのだ。わたしもたまに悪ノリするけどうちの隊で問題を起こすのは9割さぁちゃんだからさぁちゃんに言ってほしい。

「ちょっと模擬戦ブースでさぁちゃんの新作トリガー試しただけだったんだけどねぇ。やっぱり爆発したのがよろしくなかったのかな」

「それ以前の素行の問題じゃないですか」

ここで初めて木虎がわたしと話をしてくれる。それが小言なのでまったく嬉しくないけれど。

「木虎」

「時枝先輩はこの人に甘過ぎるんです!」

とっきーが咎めるように木虎の名前を呼ぶが、火に油を注いだだけのようだった。

「みょうじはお転婆だからなぁ」

「えっ。高3にもなってお転婆って言われるとは思ってなかったです」

犬飼に言われたら迷わずメテオラをぶっ放したくなるが、嵐山さんに爽やかな笑顔で言われたらちょっと誉められてるような気分になってしまう。嵐山さんにも食ってかかりそうな木虎は綾辻ちゃんにまぁまぁ藍ちゃん〜と口に何かを突っ込まれていた。綾辻ちゃんに迫られたらもう黙るしかないよね。ありがとう綾辻ちゃん。今度先輩がいいとこのお菓子買ってあげるね。

「嵐山隊は本当にいつも忙しそうですよね」

「そんなことはないさ。俺たちはできることをやっているだけだからな」

「少なくともわたしにはできないです」

「そうか?みょうじの隊が広報をやったら市民のみなさんにボーダーが明るく楽しい組織だって伝わると思うぞ!」

それは超絶ポジティブ解釈すぎやしないだろうか。これが天下の嵐山准である。木虎がとても不快そうな顔をしているし、佐鳥も微妙な顔をしている。綾辻ちゃんととっきーだけが普段と変わらない様子を見て、普段の嵐山隊が少し想像できてしまった。適当にお礼を言って、料理が来るまで嵐山さんと従姉妹である小南と最近遊んだ話をしたら嵐山さんは大喜びで弟と妹の話を始めた。佐補ちゃんにこの間怒られた話をする嵐山さんに対し、隊員たちは我関せずである。そうこうしてる間に料理が運ばれてきて、わたしの前においしそうなクリームソースのパスタが置かれる。一口食べてその美味しさに悶絶していると、佐鳥が思い出したように、あ、と声をあげた。

「そういえばとりまるがなまえ先輩はクリームソースのパスタ作った時が一番おいしそうに食べるって言ってた!」

ちょっと待て。まず誤解しないでほしいのだが、それは小南や栞ちゃんと遊びに玉狛支部に行った時にたまたまとりまるが夕食の当番だった時の話だろう。レイジさんの料理が一番の楽しみではあるが、玉狛で食べる料理は小南のカレーもとりまるのパスタも迅さんの鍋もおいしい。クリームソースが好きなのは事実であるものの、それをとりまるに言った覚えはない。え、なんでとりまるはそんなこと知ってるの。もしかしてみんなの反応を見ているのだろうか。ほら、バイトで染み付いた癖的な何かで。だから木虎、お願いだから親を殺されたかのような目でわたしを睨むのはやめて。木虎の視線を一身に浴びて口に含んだ二口目は、全然味がしなかった。


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