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夏油と後輩の背伸び
※50万打フリリク"夏油と後輩"の続きです


あの人の隣に並んで見劣りしないくらい、大人っぽくなりたい。そう思って、少し背伸びをして赤い口紅を買った。自分にそれが似合う自信はないけれど、試してみなければいつまで経っても似合う女の子になんてなれるわけがない。寮の自室で鏡と向き合い、自分の唇に赤をのせていく。やはり少し浮いているように見えるけれど、ただ唇の色を変えただけで、なんだかとても大人になったような気がした。

「あれ?今日何か違う?」

夏油さんに見せる前に、まずは笑われても大してダメージを負わない相手に見せよう。赤く彩った唇をそのままに、灰原と七海と待ち合わせしている訓練場へと向かった。ポケットにはしっかりとティッシュといつものほんのり色づくリップが入っており、すぐに落とす準備はできている。朝から元気な灰原は、わたしの顔を見て第一声、不思議そうに首を傾げながらそう言った。

「……変?」

「変じゃないよ!いつもと雰囲気がちがうなって思っただけで!」

「いつもより口が赤いよね」

「なんか言い方に悪意を感じる」

灰原に朝からレア肉でも食べたの?と聞かれることも覚悟していたが、七海の悪意を感じる言い方は置いておいても、そんなに反応は悪くないように思う。もしかして、自分の顔だから見慣れない色に違和感を覚えていただけで、実は結構似合っているのかもしれない。

「夏油さん、褒めてくれるかな」

「褒めてくれるよ!夏油さんは優しくて格好いいから!」

「優しいから褒めてくれるのはお世辞だと思うけど」

「七海は黙ってて!」

同級生たちと話してすっかり自信をつけたわたしは、訓練が終わった後、しっかりとボディシートで身体を拭き、お気に入りのヘアミストを使って、メイクを直し、仕上げに赤い口紅で唇を彩り直すと、夏油さんが待っているはずの寮の談話室へと足を運んだ。

「夏油さん、お疲れ様です!」

ソファに座っている夏油さんに駆け寄って、隣に座る。ぴったりとくっついて座るのはまだ少しハードルが高くて、わたしと夏油さんの間には拳一個分の距離が開いていた。スライド式の携帯を弄っていた夏油さんは、いつもの優しい笑顔でお疲れ、と言いながらわたしを見て、目を瞬かせた。

「随分珍しい色をつけてるな」

「……似合いませんか?」

すぐに気づいてもらえて、うれしい。わたしの頬に添えられた夏油さんの大きな手に胸が高鳴った。いつもと違って大人っぽいわたしに、夏油さんもドキドキしてくれていたりしないだろうか。期待を込めて上目遣いで夏油さんを見つめる。

「似合ってるよ」

ぱあ、と明るくなるわたしの顔を見てから、夏油さんが、ただ、と付け加えた。

「私は、背伸びをしていないありのままの君が好きだけどね」

くい、とわたしの頬に添えられた夏油さんの手が動き、その親指がわたしの唇を強めになぞる。何起こっているのかわからなくて、ただただ離れていく手を見送る。夏油さんの親指にはわたしの真っ赤な口紅がべったりとついていた。赤くなった親指を見せつけるようにぺろり、と舐めた夏油さんにわたしの顔が熱くなる。きっと耳まで、口紅に負けないくらい真っ赤になってしまっているだろう。そっちの方が似合っているよ、とくつくつと笑った夏油さんは、優しくわたしの頭を撫でた。

「今度、新しい口紅を一緒に買いに行こうか」

やっぱり子供扱いされている。そう思うけど、デートの約束も、夏油さんがわたしに似合うと思う色っを選んでもらえるのもとても魅力的で、わたしは馬鹿みたいに頷くことしかできなかった。