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五条悟に誕生日を祝われる
誕生日が嬉しい年齢は、とっくの昔に過ぎてしまった。嬉しかったのは20歳までで、25歳を過ぎた所謂アラサーと呼ばれる年齢になってからは誕生日なんて来なければいいのにとさえ思う。忘れることだって珍しいことではないが、毎年硝子ちゃんが忙しい合間を縫ってお祝いで飲みに行くよ、と誘ってくれるタイミングで誕生日を思い出す。それから五条がおっきなケーキを持って家に来て、一晩泊まって祝っていく。誕生日は一緒にいたい、なんて言えるような関係でもないし、性格でもない。それでも毎年、いくら任務が入っていても必ず当日のうちにお祝いしてくれるのだ。それが嬉しいだなんて、本人には口が裂けても言えないんだけれど。今年も五条は3日前に任務に行ったまま、まだ帰って来ていない。ただ今日も平日故、私は忙しく事務室の机で書類を捌いていく。

「なまえ誕生日だろ、おめでとー」

「ありがと、真希ちゃん」

たまたま伊地知くんのところに任務の打ち合わせで来ていた真希ちゃんに誕生日を祝われたのでお礼を言う。去年は五条の任務がなくて、仕事中にも祝ってくれたのを覚えてくれていたようだった。

「悟、今年は任務なんだろ?残念だな」

「五条は忙しいの。大人をからかうんじゃありません」

にやりと笑いながらひらひらと手を振って事務室から出ていく真希ちゃんを見送りながら、今頃任務中であろう五条のことを思い出すけれど、なんだか思う壺な気がして、定時ダッシュをする為に書類に向き直った。

******

残念ながら定時ダッシュとは行かなかったけど、トラブルもなく無事早めに帰路に着く。結局五条は定時前に戻ってくることはなく、連絡もない。約束した訳ではないけど、何故か私に執着している五条が今年だけ誕生日を忘れているなんてあり得ない。ご飯はどうしようか悩んで、先日テレビで見て食べたくなったハヤシライスの材料を二人分買って帰ることにした。仕事帰りの五条と一緒に食べるのも悪くない。そう思いながら買い物をして、五条用に甘いものも忘れずに購入した。思ったよりも荷物になってしまったけど、家まではそう遠くない。着いたら軽くごはんの支度をして、ゆっくりお風呂に入ってお酒でも飲みながら待っていればいい。そんなことを考えていたら自宅まではすぐだった。鼻歌を歌いながら、予定通り軽くごはんの準備をしていると、ちょうどいいタイミングでお風呂が沸いた。お気に入りの入浴剤を入れて1日の疲れを取るように、長めにお風呂に入ったけれど、私のスマホには五条からの連絡はまだない。任務忙しいのかな、なんて思いつつお風呂上がりのスキンケアをして、煮込んでいたハヤシライスの味見をする。我ながらなかなかの出来映えだと頷いて、付け合わせのサラダとスープも準備した。とりあえずこれで全部かな、と支度を終えて時計を見ると、もうすぐ21時を回るところだった。それでも私のスマホは鳴らない。あれこれ言いながらも、五条に祝ってもらうのを楽しみにしていたのが悔しくなって、用意していたごはんたちを冷蔵庫にしまった。こんなことで落ち込んでも仕方ない、明日も平日で仕事なのだ。ごはんを食べる気分ではなくなってしまったし、こうなったら早々に寝ることにしよう。これ以上五条のことを考えないようにと思い、歯磨きを済ませてベッドに入る。大きなため息をついて、五条に会えないだけでこんなに誕生日が寂しい日だなんて思わなかったと考えながら、眠りに落ちそうな時だった。家のインターホンが鳴ったのは。たった今もう寝るつもりだったのに、私は飛び起きて玄関に向かった。こんな時間に連絡もなしに訪ねてくる人間なんて、一人しか知らない。覗き穴から姿を確認してドアを開けた。

「誕生日おめでとうなまえ〜!」

そこにいたのはやっぱり五条で、手にはケーキの入っていそうな箱を持っていた。

「ありがとう。早く中入って」

さっきまで寝る気満々だった私だけど、今は五条に会えて嬉しいという気持ちが勝ってしまっている。我ながら現金だと思いながら、受け取ったケーキを冷蔵庫に閉まって、ハヤシライスを温め始めた。

「任務お疲れ様、大変だったの?」

「いーや、だって僕最強だし」

「え、じゃあなんで珍しく連絡寄越さなかったの?今日だって、毎年一番先に連絡してくるのに」

「今年は嗜好を変えてみたんだよ。だってこうすればなまえは今日ずっと、僕のこと考えてたでしょ?」

本当に恐ろしい男だ。考えていたこと全てが五条の思い通りだったなんて。絶句するとはこのことである。反論出来なかった私は、とりあえず用意が出来たハヤシライスを盛り付けて、サラダとスープもテーブルに乗せた。目の前で嬉しそうに、なまえのハヤシライス、美味しいんだよね、なんて言っているこの男をまだ若干引き気味で見ていた私に五条は突然こう言った。

「ケーキまで食べ終わったら、なまえのこと目一杯お祝いしてあげるね」

にやにや笑いながらそう言った五条に、顔に熱が集まるのを感じて、今夜は長そうだと覚悟したのだった。