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ハクに求婚まがいの事をされる
「もう!うまく髪がまとまらないわ!なまえー!」

「はいはい、どうなさいました?ヨナ姫」

「髪!かわいくまとめてちょうだい!」

可愛らしい顔立ち、暁の空のような真っ赤で愛らしく癖のついた髪。綺麗に整えられた肌に美しい装飾品。緋龍城にいる者ならば誰でも知っている、ヨナ姫様である。私は可愛らしいと思うのだが、ヨナ姫はそのくるくるとした赤毛が気に入らないそうだ。そのままでも素敵ですよ、と自分の髪にご立腹な姫に言うと、いいからなんとかしなさい!と怒られてしまった。私はヨナ姫の侍女をやっていて、城勤めだった両親がイル陛下から信用をしていただいていた事から、ヨナ姫とその従兄弟であるスウォン様、そして風の部族のムンドク長老の孫のハクと4人、幼馴染として育ってきた。昔から親しかったからこそ、ヨナ姫は私のことを誰よりも傍に置いてくれているし、私もそんな姫の可愛らしいわがままをできるだけ叶えてさしあげたいと思っている。くりんくりんとあっちこっちに跳ねてしまっている髪をストレートに整えることはできないけれど、かわいい髪飾りでもつけてあげようかな。姫のお気に入りの装飾品の中から今日の服に合う髪飾りを見繕う。

「なまえにそんな出来もしないようなこと命令してどうするつもりで?」

「……おまえは本当に無礼ね!ハク!!」

身支度を整えている姫の部屋に入れるのは姫の父親である、イル陛下、そして私のように姫によしとされた侍女等の本当に限られた人間だけなのだが、中には例外もある。それがこの男、高華の誇る雷獣、ハク将軍なのだ。姫は一度としてハクに入る許可を与えたことはないのだが、見たところで何とも思いませんよ、とハクが勝手に入ってきてしまう。イル陛下も何かとハクに甘いため、姫がどれだけ怒っても全く意味がなく終わっているのだ。

「もう、女性が身支度を整えている時に部屋に入ってきちゃだめですよ、ハク将軍」

「……女性?」

「おまえの目は節穴かしら!?」

「ヨナ姫もそんなに声を荒げるものではありません」

「そーそー。スウォン様もきっとおしとやかな女性が好きですよ」

また火に油を注ぐようなことを。恨みがましい目でハクを睨むと、にやり、口角を上げて返された。ハクに向かって怒鳴り散らす姫に溜息を吐いて姫の髪に選んだ髪飾りをつける。ほら姫様、できましたよ。…かわいいけど私がしてほしかったのはこういうことじゃないわ。じゃあ今度また新しい髪飾りを買ってきます。だからそうじゃないってば!大変可愛らしいですよ。にっこりと笑顔をつけると、もういいわ、と諦めたようにヨナ姫がそっぽを向いた。本当に可愛いんだからにこにこしていればいいのに。そういえば陛下が呼んでましたよ。思い出したように言うハクに、早く言いなさい!と怒って姫は出て行ってしまった。親子水入らずのところをお邪魔するのも野暮だし、何かあれば誰か呼びにくるだろうと踏んで、姫が身支度に散らかした部屋を片付ける。

「相変わらず姫さんの扱いはピカ一だな」

「ハク将軍が怒らせるようなことばかりするからでしょう」

「……ハク将軍、ねえ」

「……なにか?」

いや?と何を考えているかわからないハクがその場に座り込んだ。ここはヨナ姫の私室ですよ。今更だろ。何を言っても聞かないのは確かに今更ですね。昔から、スウォン様も姫さんも、人の言うことなんて聞いてなかっただろ。否定できない。あんな穏やかな顔をしたスウォン様だってやらかす時はすごいし、ヨナ姫は言うまでもなく、自分が決めたことに真っ直ぐ向かっていってしまう方だ。ハクも含め、そんな3人に私は昔から振り回されっぱなしである。

「ヨナ姫の護衛なのに、目を離していていいんですか?」

「イル陛下んところなら安全だからな。だからおまえもここにいるんだろ」

「私とハク将軍では立場が違うでしょう」

「ま、たまにはいいんじゃねーの?息抜きしたって」

「たまにならいいんですけどね」

「おまえ俺にだけ棘があるな」

だってたまにじゃないでしょ。今の平和な高華国ではそんなに物騒な事が起きるとは思わないし、いざというときにハクほど頼りになる人はいないとわかっているから誰も咎めたりしないが。

「なまえはこういうのつけねーの?」

ヨナ姫の煌びやかな装飾品をひとつ手に取って私にあてるハクの手からそれを奪い、片付ける。

「こういうのはヨナ姫だから似合うんですよ。私みたいな侍女には身に余るものです」

「簪のひとつ持ってないようじゃもらってくれる男もいないぞ」

「余計なお世話です」

仕事の邪魔しないでもらえますか。言葉にせずともそう表情でそう伝えると、ハクはやれやれと肩をすくめた。そのまま片づけと、ついでに掃除をする私を何も言わずにただ見ているハクに気まずくなって、気が散るんですけど、と呟くと、俺の事は気にするな。と返ってくる。そういう問題じゃないのだけれど。もうこれは無視するに限る。意識からハクを排除して後は雑巾をかけるだけ、というところで、床に偉そうに座り込んだままのハクが障害になる。どいてください。やだね。邪魔なんです。知らん。いくら言っても動く気配のないハクに私の堪忍袋の緒が切れた。

「だから邪魔なんだってば!」

「おいおいさっきまでのかたっくるしい敬語はどうしたんだよ侍女殿?」

「ハクが邪魔ばかりするからでしょ!」

もうハクごと雑巾かけてやろうか!と振り上げた雑巾を持った私の手を、ハクが掴んで止める。そのまま勢い余って転倒した私を支えたのは他でもないハクの腕で、私は座っているハクの上に乗って抱きしめられているような体制になってしまった。ごめん。すぐに退こうとするが、腰に回ったハクの手がぴくりとも動かない。さっきの話だけど。私の頬をするりと撫でて、ハクの鋭い目が私を射抜いた。瞳は何かを企んでいるかのように楽しげな色をしている。

「将軍の嫁になりゃ老後も安泰なんじゃねえ?」

意味を理解できずに固まる私をそのままに、さーて、暇つぶしに兵の鍛錬にでも付き合いますかね。なんて言ってハクはヨナ姫の部屋を出て行った。今、ハクは何を言ったの。将軍の嫁?でも今の将軍は結婚されている方ばかりなのに。それに歳だって離れてる。歳が近いのはそれこそハクくらいだ。風の部族長ともなれば地位も名誉も結婚相手として申し分ないどころか、皆が羨むほどだろう。いやでもどうしてあの流れで?あれではまるで、

「プロポーズ、みたい」

自分で言って自分で顔を赤くしている姿は、端から見たら滑稽なことだろう。きっとこんな風に色々と考えてしまっている時点で、ハクの思うつぼなのだ。