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真琴と結婚したい
毎朝、少し早めにかけられたアラームで目が覚める。起きて顔を洗って髪の毛とか、少しだけ、ばれない程度に施す化粧とか、念入りに身支度を整えてだらだらと朝のニュースを見るのだ。占いの結果が良かったらテンションも上がるし、悪かったら朝からどんよりとした気分になる為、これが案外大切なことだったりする。そして占いが終わったころ、必ず家のチャイムが鳴らされるのだ。待たせないように慌てて鞄を引っ掴んで駆けだす。玄関の扉を開ける前に折角整えた髪型がぼさぼさになってしまうのではないかと毎朝頭をかすめるものの、崩れたら崩れたで、また後で直せばいい。むしろ、少しくらい崩れてくれた方がラッキーだとでも言うべきだろうか。

「まこちゃん、おはよ!」

「おはよう、なまえ」

扉を開けると、目じりの下がった笑顔に出迎えられる。この瞬間が私の至福である。また寝坊したの?う、うーん、起きられなくて。しょうがないなあ。やはりすこし崩れてしまった髪をまこちゃんが撫でつけて整えてくれて、それがうれしくて頬が緩んでしまう。本当だったら、全然間に合う時間に起きてるんだよ。確かにだらしないところがあるとは思うけれど、まこちゃんに会うのに本当にひどい姿なんて見せられないから、私は私なりに頑張ってるんだよ。なんて、言えるはずもないけれど。それに、まこちゃんと一緒に学校に行かなければ、実際もっと寝てられるのだ。そして私がまこちゃんにお迎えをお願いしているから、まこちゃんだってその分早く家を出なくてはいけなくなっている。申し訳ないとは思うけれど、しょうがないな、と笑ってくれるまこちゃんに甘えて、少しでも一緒にいたいと思う気持ちに逆らわずわがままを言っている。幼馴染の特権というやつだ。まこちゃんと並んで歩いて、もう一人の幼馴染の家に向かう。もう一人の幼馴染、はるちゃんは、まこちゃんがいなくても生活面では大丈夫な私とはちがって、まこちゃんがいなければきっと学校もこなければまともな生活も送らないんだろうなあ、と思ってしまうくらいには手のかかる幼馴染だ。はるちゃんの家に向かって歩いている間だけが、私とまこちゃんが二人でいられる唯一の時間と言っても過言ではないだろう。

「今日はちゃんと朝ご飯食べた?」

「………た、食べたよ」

「まったく、朝ご飯はちゃんと食べなきゃダメだよ?」

ごそごそと自分のカバンを漁ったまこちゃんがひとつ、まこちゃんが食べるにしては小ぶりなおにぎりを取り出して、私の手にのせた。絶対食べてないだろうと思って、作ってきたよ。きゅーん。にこにこ笑顔を絶やさないまこちゃんに心臓を撃ち抜かれる。そう、これ。これだからまこちゃんに甘えるのはやめられないの。私の為に、まこちゃんが作ってくれたおにぎり。毎日と言うわけではないけれど、好きな人が私を心配してやってくれている事がうれしくないはずがない。まこちゃんに促されるままに歩きながらおにぎりを少しずつ口に入れる。おいしい、と言うとまこちゃんは今日一番うれしそうによかった、と笑った。

「まこちゃんと結婚する人は幸せだろうなあ」

最後の一口を口に入れたら、不意に本音が零れ落ちた。驚いたような顔を見ていられなくて、駆け足ですぐそこに迫ったはるちゃんの家にお邪魔する。言ってしまった。常々思っていたことではあるけれど、本人に直接、聞こえるように言ってしまった。幼い頃、将来の夢でお嫁さん、とか言った覚えもあるけれど、そういうのとは違う。いや、何も違わない。昔からずっと、私はまこちゃんのお嫁さんになりたいのだ。お嫁さんというのならばもっと私がしっかりするべきだとは思うけれど、まこちゃんに世話してもらうことがうれしくて、すぐに甘えてしまう。だけど、そんな関係でも、まこちゃんと結婚するビジョンというのは、不思議と浮かんでくるものだ。きっと今と何も変わらない私とまこちゃんがそこにいて、私は泣きたいくらいそれがうれしくて。

「………もう少し落ち着けないのか」

「………はるちゃん、おはよ」

勢いよくはるちゃん家に飛び込んだからだろう。珍しく早めに水風呂から上がっていたはるちゃんが水着エプロンで玄関を覗き込んだ。早く上がったとはいえ、鯖を焼いているにおいはするし、きっと今日も遅刻ギリギリになるんだろうな。慌てるまこちゃんがすぐに思い浮かぶ。真琴は?すぐ来るよ。それっきり無言で鯖を焼いているはるちゃんをぼーっと見ていると、玄関の扉が開く音がした。

「なまえ、急に走って行くからびっくりしたよ」

「……まこちゃん、遅かったね」

「近所のおばあちゃんと話してたんだ」

まこちゃんはお年寄りとかご近所さんからの評判もいいもんね。私とまこちゃんが一緒にいることが多いということもあって、真琴くんはいい旦那さんになるわよ、なんて言われることもある。そんなの、私が一番よく知っているけれど。はるちゃんに挨拶して、遅刻するよ、と急かすまこちゃんの制服を、ちょっとだけ引っ張る。さっきの事なんて、きっとまこちゃんはもう忘れてる。好きだとか、結婚したいとか、そういうこと考えてるのは私だけだから。そんなこと、わかってる。

「どうしたの?」

「わ、たし、洗い物してるね」

はるちゃんがほとんど食べ終わってる食器を持って立ち上がり、流しに持っていく。途中ではるちゃんがおいそれまだ…とか言っていた気もするが、聞こえなかったふりだ。早く着替えてきて。とだけ言い放って黙らせた。はるちゃんじゃないけれど、少し水に触れてぐるぐるしている頭を整理したい。

「俺も手伝うよ」

「あ……、う、うん」

じゃあ私洗うから、まこちゃん流してくれる?そう言って、後悔する。それ結局水に触れられない上に、並んで洗い物、とか、それこそ夫婦みたいだ。洗い物がすぐに終わってしまって、ふきんで洗ったものを拭いて片付けていく。

「なんかこう見ると、なまえもいいお嫁さんになりそうだよね」

思わず持っていたお皿を落としそうになった。不意打ちにもほどがあるだろう。な、なに!?いきなり!洗い物とかも、何気に手際いいし。そりゃ、一応女の子だもん。そういえば昔、お嫁さんになりたいって言ってたよね。ちょ、忘れて!そんな昔のこと!お皿を置いてまこちゃんのがっしりした腕を掴んで詰めよる。確かにそうだけど、結婚したいなあ、と思ってる相手にそれを言われるといたたまれないというか、恥ずかしいというか。どうどう、馬を落ち着かせるように私を抑えようとするまこちゃんをべしべしと叩く。まこちゃんのばか。鈍感。私の気が済んだところでお嫁さんかあ、と再度呟いたまこちゃんを睨み付けると、少し視線をさまよわせて、頬を赤らめる。

「俺はなまえと結婚する人も、幸せだと思うよ」

ねえ、それは期待しても、いいの?少し恥ずかしそうにはにかんでそう言ったまこちゃんに、淡い期待に胸を高鳴らせた。