short | ナノ
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -

ジュードがお姫様じゃない
なんていうか、かわいい弟、みたいな存在だったのだ、私にとっての、ジュードくんは。ル・ロンド出身の幼馴染で、昔からかわいい顔をしていて、おせっかいであまり主張しない性格だということもあってか、いじめられていたこともあったジュードくんを守るのは、1個年上の私の役目だった。私はその役目に誇りを持っていたし、男の子にこんなこと言うのは失礼かもしれないけれど、かわいいジュードくんを守っているのは、お姫様を守る王子様のような気分で。同じく幼馴染のレイアのお母さんであるソニアさんに護身術を習い始めてからも、優しいジュードくんの性格が変わることはなかった為、医学校に通うために王都イル・ファンに行くまでずっと、私のかわいい弟で、お姫様だった。ジュードくんが医学校に通い始めてからも、時々イル・ファンに遊びに行ってはジュードくんにまた来たの、と苦笑されて、それでもジュードくんは毎回私のわがままに付き合ってイル・ファンを案内してくれた。本当に、よくできた弟だ。

「ジュードくん?」

「ひさしぶり、なまえ」

にっこり。昔と同じようにかわいく笑ったジュードくんは、昔と変わらないようで、何かが違った。少し、がっしりしたのかな。顔も、心なしか大人っぽくなって、男の子っぽくなったと思う。足を怪我してしまった女の人を連れてル・ロンドに帰ってきたジュードくんに驚きはしたけれど、ジュードくんのやることに反対するつもりなんて毛頭ない私は、その女の人……ミラを助けたいというジュードくんの手助けをすることになった。どこかミラに依存しているようなジュードくんの行動や言動に、ああ、姉離れの時がきたのだろうか。そう思って寂しくなりもしたが、ここはかわいい弟の門出を祝ってあげようじゃないか。ミラの足が治ってジュードくんがル・ロンドを出ていくと言った時も、行ってらっしゃいと笑顔で見送るはずだったのに、猪突猛進なレイアに引っ張られて気づいた時にはジュードくんとミラの旅に同伴することになっていた。ジュードくんがやるなら私も、と駄々をこねてソニアさんに教えてもらった護身術がこんなところで役に立つとは。精々ちょっと街の外を歩く時の為、とか、痴漢退治の為、とかくらいにしか考えていなかったというのに。なまえ!大きな声で呼ばれた名前に、はっとする。気づけばすぐ前には魔物が迫っていて、慌てて避けて一撃くらわす。完全には避けきれなかったのか、二の腕にぴり、とした痛みが走った。すぐに援護に来てくれたミラとアルヴィンが他の魔物もまとめて仕留めた。

「戦闘中に、何を考えていた」

「ごめん、ぼーっとしてた」

「私が気づかなかったら、大けがしていたかもしれないんだぞ」

「……ごめんなさい」

どうしてこうなったんだっけ。だんだんと仲間が増えて、戦わなくてはならないものが明確になっていって、そんな中で私がここにいる意味というものがわからなくなっていた。ジュードくんを守る?ジュードくんはもうとっくに私なんかより強くて、私に守ってもらう必要なんてない。先ほど私の名前を呼んでくれたミラは使命を果たすために旅をしているのだ。中途半端な気持ちの私のことを、迷惑に思っているのではないだろうか。下手すれば死んでいた。わかっているから、謝ることしかできない。これで着いてくるのをやめろ、と言われたら甘受するしかないかな。もともと、私にはここにいる理由なんてないんだし。俯いた私に、ミラは溜息を吐いて、日が暮れてきたから今日はここで休もう、と提案した。野営や料理の準備をし始めるみんなに、私水汲んでくる、と1人でその場を離れる。レイアが私を呼び止める声が聞こえたけど、聞こえなかったことにした。

「もう、1人でどっか行って魔物に襲われたらどうするの」

「……ジュードくん」

水の流れる音を頼りに川辺にたどり着き、水面に映る自分の顔とにらめっこしていると、水面に見慣れたかわいい顔が映った。

「さっき、けがしてたよね?」

「このくらい大丈夫」

「そういうのはちゃんと手当てしないとだめだよ。そうでなくても、なまえは女の子なんだから」

ずきん。こうやって心配する役目は、私のものだったのに。いつから立場が変わってしまったのだろうか。いつの間にかジュードくんは私の知っているジュードくんじゃなくなってしまっていて、どうしようもなく、寂しい。ねえ、ジュードくん、私このままみんなと一緒にいていいのかな。ぽろりと零れた弱音は、私がずっと悩んでいたことで。水面越しに驚いたような顔をしたジュードくんと目が合った。さっきミラに怒られたこと、気にしてるの?そうじゃ、ない。さっきのは僕もミラが正しいと思う。なまえが大けがするかもしれないって、僕も心臓が止まりそうになったし。……うん、わかってる。そうじゃないの。私は、ジュードくんに必要なのかな。私はジュードくんのお姉ちゃんなのに。ジュードくんを守ってあげなきゃいけないのに。逆に迷惑ばっかりかけてる。ジュードくんの顔が見れずに、水面からも目を逸らした。ジュードくんは、何も言わない。ミラの使命とか、そういうのには、私みたいに中途半端で覚悟もないやつが関わっちゃいけないと思うの。もう一度話し始めてしまったのだから。開き直って思ってたこと全部話す。そして話しきるのを待っていたかのように、ジュードくんが私のけがした腕を手に取り、ハンカチを取り出して、手当てをしてくれる。

「ジュードくん……?ちょ、いたい」

「………」

「い、いたいいたいジュードくんってば!」

ジュードくんにしては乱暴すぎる手つきで手当てを終えて、私の頬を勢いよく抑えた。ぱしん、と控えめな音が響く。

「なまえはさ、いつも僕の事を弟だって言うけど、僕はいつまでも子供じゃないんだよ」

「……そう、だよね」

「だけど僕はまだ弱いし、この旅が危険なものだってわかってるから、絶対に守ってあげる、とは言えないけど」

一拍置いて、ジュードくんが私の額に自分の額をこつん、とぶつけた僕はなまえがいてくれたら、うれしいな。花のように可憐に笑ったジュードくんは、いつものようにかわいかったけれど、お姫様なんて到底言えなくて、頬を包まれている手がごつごつしていることとか、些細なことに男の人を感じてしまった。ジュードくんは、私のお姫様だったのになあ。ついぼやくと、お姫様と言われたことに少し怪訝そうな顔をしたジュードくんが、じゃあ今はなまえが僕のお姫様だね、と苦笑した。

「もう、ジュードくんに一緒にいてほしいなんて言われたら、断るわけにはいかないじゃない」

「ごめんね。でも、なるべくけがはしないでほしい」

「ジュードくんが言うなら、頑張るね」

弟に心配かけるわけにはいかないもんね。汲んだ水を持って立ち上がると、ジュードくんは全然わかってない、と溜息を吐いて、私の手から水を奪った。みんなのところに戻ってすぐ、レイアに心配されて、怒られて、ミラにも溜息を吐かれたが、笑ってごめんね、と告げるとみんな安心したように笑って受け入れてくれる。ジュードくんがなにやらアルヴィンと話した後に肩を落としていたのが気になったので、後でアルヴィンに聞いたら、おたくも中々手強いねえ、と肩を竦められた。