それは儚く | ナノ

それは儚く

05.理解不能

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毎日欠かさず続けてきた稽古も、少し物足りなくなってきた。
竹刀を振り回すのが主だ。当然何年もやっていれば飽きる。

かといって射撃は音や消耗品の問題がある。
本当は体術なんかが一番都合がいいのだが、あいにく私にそういうことを教えてくれる人は居ない。




「……風間千景、か」




奴なら剣術でも私の上を行く。
逆に言えば、奴が遊女に暴力をしたとしても私は助けられない、ということか。

はは、所詮私は番人の娘か。
しかし…番人の娘じゃないと、吉原の姫じゃないとできないことだってあるはずだ。
いざとなれば…。


いざとなれば、あの男に身体を売ったって構わない。
元々ここはそういう場所だし、遊女を守るためだったらなんだってする。

ただ、こんなことになるとは思ってなかった。
吉原は、落ちぶれ惨めな男しか来ないと勝手に認識していた。
そういう男だけだったら倒すのも容易いのに。




「姫さん!!!」

「姉上か。慌ててどうした?」

「かっ…風間千景から、文でありんす…っ!!」




焦り方が尋常ではない。
文ごときでなにをこんなに慌てるのか。


風間千景からというのは多少驚くべきことかもしれないが、なんせこの私だ。
良く言えば冷静、悪く言えば反応が薄いという面白くない性格がここでも表れた。




「貸してくれ、読む」




見てみると、吉原宛てだと思っていたそれは私宛てのようで。
奴に気に入られるほどのなにかをしたつもりはないんだが。




「………なぁ姉上」

「姫さん?」

「姉上は風間千景に会ったことがあるのか?」

「…先日が初めてでありんす」

「そうか………」




じゃあ、母が吉原の番人になる前に…。

文を要約するとこうだ。
風間千景は私の母を知っているらしい。
そして母には双子の妹がいて、その子供の一人が江戸、もう一人が京にいる。
そんなことも書いてあった。

つまりは母が番人になる前の旧友である風間千景が、その娘である私に親族について教えてくれた、か。

目的が判らない。
奴は私にこんなことを教えてなにがしたい?
まさか家族に触れたことない私に情をかけ従兄弟に会わせてやろうと?

……そんな無駄なことをする奴ではないか。




「……人間とは難しいものだな」

「人間だけではありんすめぇ。それに、風間千景が人間とは限らないでしょう」

「…というと?」

「人間の姿をした全く別の生き物だという可能性も、ありんす」




何を言いだすかと思えば。
非現実的だ。人間は人間でしか有り得ない。

確かに風間は人間らしくない速さの持ち主だ。
だがそれで人間ではない、となると道理が立たないじゃないか。




「一応聞くが…、例えば?」

「例えば?」

「風間が人間じゃないとすれば、奴は何者だ」

「何者…例えば─…鬼、などでありんす」




鬼、か。

心の臓が大きく跳ねた、気がした。






理解不能

( やはり…一度話すべき、か )




◎ちなみに私は風間が好きではないです。アニメで意中の人が殺されたので…←
20120311




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