それは儚く
▼04.母のように
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月明かりが眩しい、と感じたのは久しぶりか。
何故だか酷く愉快だ。
風間千景。
あやつの情報はなかなか手に入らない。
腕のいい刀の使い手という情報は入っているが、消息などは全くわからない。
今のこの国の住人は幕府に管理されているものだと思っていた。
しかし風間千景の記録がない。
「姫さん、上がってるでありんす」
「……何が?」
「口角でありんす」
口角…?
「姉上、それはつまり…笑っている、と?」
姉上は頷く。
確かに、愉快で、楽しみで、落ち着けない。
私はちょうど刀を持っていなかったし、刀を交じらわせたわけではない。
だが絶対に強い。それだけは判る。
これが母の血だというのも皮肉だ。
私はそういうことが判るだけで母のように強くない。
ただ、刺客としての奴ではなく、普通に風間千景と話してみたい。
それだけだ。
「風間千景…でありんした?あの男は」
「それがどうかしたのか?」
「姫さんも恋をするようになったようでわちきは嬉しい限り…姫さん?」
疲れが一気にきた。
姉上はこんなことを考えていたのか。
姉上は私が番人を捨て姫になることを望んでいる。
恋をするだなんて本当にただの女だ。姫にふさわしい…。
だがもちろん、私は姫になんてならない。
恋に溺れて自分を見失うなんてまっぴらごめんだ。
そういう遊女をたくさん見てきたし、私には救いようにない状態だった。
だから私は恋なんてしない。
姫にだってならない。
私は番人になることだけ考えていればいい。
「姉上…」
「はい」
「私はまだ…母には遠いか?」
「…わちきには答えにくい質問でありんす」
姉上はいつも濁す。
それが質問に対して否定だということも、私は知っている。
「強くならなきゃ…」
そう、強くならなきゃ……。
風間千景にも勝てるくらいに…。
母のように強くなる
◎ミステリヤスキャラには適任の風間さん。
20120305
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