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それは儚く

03.思い出に触れた

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太ももに手を伸ばそうとして、止める。
そこには銃があるのだが、私がそれに触れるより先に斬られるのがオチだ。

それほど、刀と私の距離は短い。




「…一応名を聞かせてもらおうか」

「姫にしては強気だが…番人にしては弱いな」

「…お前は何者だ」




……間違いない。彼は楽しんでいる。
目的なんてない。
しいていうなら、吉原の番人を見たいとかそういうくだらない理由だ。

遊女の反応を見る限り、彼と関わったことのある者はいない。
だとすると、来るのは今日が初めてに加えわざわざ私に会いに来た愚かな人間、だ。


吉原外でも私の噂が流れているということか…。
誰が流したのかは知らないが、迷惑だ。




「私は暇じゃない。…話がないなら帰ってくれ」

「風間千景」

「は?」

「よく覚えておけ、吉原の姫」




そう言うと彼は警戒することなく刀を鞘に納めた。
本当だったら一発蹴りでもかましてやりたいが、あっちにその気がないならやる意味もない。

それに恐らく、彼は強い。
互角にもならないはずだ、彼と私は。

そんなことも手伝ってか、やる気は失せてしまった。




「また来る」

「遠慮したいのだが?」




奴…風間千景は鼻で笑ったあと消えるように此処から去った。
本当に、消えるように。
人間業ではない。なに者なんだ、彼は…。


……とは考えているものの、あまり驚いてない。
自分で思うのもおかしいが、冷めている。
冷静というと聞こえがいいが、私の場合反応が薄いと言ったほうが適切か。

風間千景が去って遊女や男の驚きの声が聞こえたとき、私は彼がいた場所を睨んでいた。


私はあれを過去に見たことがある、気がする。
いつどこで見た?
彼のように消えるのも、あれ程の速さも、知っている…気がする。




「母上……」




私の小さな言葉は人々の囁きに掻き消された。






深過ぎて、届かない

( どうでもいいことしか思い出せない )
( 母上、知っているんでしょう? )




◎私のバカなテンションはいったいどこに…
20120303




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