それは儚く
▼02.職業=人脈
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不法な輩はいくらでもいる。
証拠に、私が暴れない日はなくならない。
私だって、本当なら幼いときのように屋敷でのんびりとしていたい。
それを、臆病な自分が許さない。
自分が寛いでいる間に遊女が怪我をしていたらどうするのか、と何度も言ってくるのだ。
「今日も見回りかい?大変だねぇ、番人も」
そして、毎日歩いていたら私を覚える男だっている。
「ふん…暇な君が羨ましい」
「誉め言葉として受け取っておくぜ」
「ご都合主義か貴様は…。仕事に戻る、じゃあ」
片手をひらひらと振る。
これもただの強がりだ。
番人らしい、強い女になりたい。
遊女たちが私と母は違うと言っている時点で私は番人に成れないのに、ご苦労なことだ。
「千春さん!!」
「…あぁ、新入りの遊女か」
後ろから呼ばれ振り向くと、見覚えのある女がいた。
私はこういう女をしばらく信じることができない。
彼女みたいな新入りは私の存在理由を知らないため、私を否定する。
吉原にいるのに遊女じゃないとはどういう意味だとでも言いたいのだろう。
特に、売られて此処に来た娘は。
「あの…男の人が千春さんに会いたいと…」
「男だと?私に…?」
信じてやれないのは自分の心が狭いからだ。
だが……怪しい………。
「だから千春さん、一緒に来ていただけませんか?」
「……考えさせてくれ」
「姫さんは遊女なんかじゃありんすめぇ」
急に肩を抱かれる。
微かな葉巻の香りがした。
声の持ち主は、私より5つ程年上の遊女だ。
私のことを妹のように可愛がってくれた彼女を、私も姉のように慕っている。
彼女が笑ってくれるのが嬉しくて、姉上と呼びはじめたのはいつのことか。
顔を少し上げれば、姉上の柔和な笑みが見えた。
「わちきらを守ってくれるのはこの人以外誰がいる?」
「私は…!!守ってもらったことなどありません!!」
「なら姫さんの強さを知ったときに、悔やむことになると思いんす。それに……」
一瞬、姉上の笑みが崩れた。
同時に肩を抱く手の力が強くなる。
…相当怒ってるな。
「もし姫さんを傷つけたら、貴方はこれから1人で吉原を生きていくことになるでありんす」
「っ!」
逃げていく女に、冷たい目を向けた。
そんなに私が嫌いか。
守ってもらっている私が憎いか。
「姫さん」
「……礼を言う」
「そうじゃなくて…姫さんは女にも厳しくできるようになる必要がありんす」
できないと姉上も判っているくせに。
私にとっては、遊女に暴力を振るう男だけが敵だ。
「…遊女と争って男を倒しそびれたなんて言い訳はできん。それに遊女相手なら姉上が守ってくれる」
「全く…ご機嫌とるのが昔と変わらず上手でありんす」
「皮肉を言われるのくらい承知。だが、姉上のことはちゃんと信頼しているよ」
口を押さえて笑ったあと、姉上は誰かに呼ばれていった。
すれ違いでまた別の遊女がやってくる。
彼女は信頼できる人間だ。
「姫さん!!不審な男です、逃げてください!」
「はぁ?逃げろ?」
「姫さん狙いなんです!!」
ふん…私がそう簡単に負けるわけがない。
これでも吉原の番人の娘だ。
………彼女とは長い付き合いだ、そんなこと判っているはず。
ならばなぜ……!
「姫さんっ!!」
「!?」
目の前には刀がある。
…どうやら後ろに回られたらしい。
彼女は前から来たんだ。しかも走って。
この時間で後ろから来るなんて人間ができるのか?
「…考え事とは余裕だな」
低い声とゆっくりとした喋り方。
私の聞いたことがない声だ。
接点なんてあるわけがない。いつだかの男の逆恨みか?
……厄介ごとに巻き込まれたらしい。
どうしようか。
職業=人脈
◎良かったちゃんと薄桜鬼連載になった…!
20120213
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