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01.臆病者

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吉原の姫として君臨している私は、全然姫に相応しくない。



元々は先代である母・吉原の番人の娘であるから、姫と呼ばれただけ。
しかし、私が物心つく前に母は亡くなった。
番人を知らない姫は番人に成り切れず、番人の血が姫にも成り切らせてくれない。

そんな私は巷では“吉原の番人”だし、遊女に囲まれれば“姫さん”だ。
遊女たちも私を番人と呼んでくれればいいのに、遊女はそれを拒んだ。

―…私と母は違うから、と。

確かに、遊女の話だとまるっきり違う。
ただただ戦うのが好きで正義感の強い母は、番人というあだ名にぴったりだ。
かわって私は、遊女が殴られたりしているのを見ていられない。それだけ。

この話をした際に、
「姫さんは心の優しい方、まるで僕を守る将軍様のようでありんすと思いんす」
とか言われたのをきっかけに、今も昔も変わらず姫さんと呼ばれている。



でも……違う。

そんな僕を守るなんて大層なものじゃないと、私が1番判っている。
両親を失った私はまた誰かを失うのが怖い、ただの臆病者だ。
最初は母のようになりたいという思いもあったが、そんなものとうに消えた。
私は母のようには成れないのだから。

全てを諦めて今の私がいる。
臆病のくせに強がりで、どうしようもない人なんだ、私は。



そう判っているのに、今日も大事な人を失いたくないがために吉原を歩く。







臆病者




◎…私が考えるヒロインって全て不安定…←
20120206




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