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それは儚く

12.ゆらぐ

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カチャリ、という音と同時に、目の前にいる男は固まった。




「吉原を乱す者に容赦はせん。死にたくないと思うのなら今すぐ出ていけ」

「ひっっ…………!」




男が背を向け駆けて行くのを、冷めた目で見ていた。それは私に限った話ではないようで、隣にいる姉上も心底呆れた様子だった。


銃を定位置に戻し、目を閉じる。
考え事をするとき母はこうしていたらしい。所詮真似事だけれど。

最初あの男を見たとき、どこか可笑しいと思った。
挙動不審だったのだ。
なにかを探すような、そんな感じ。
吉原では珍しいみすぼらしい衣服に、必死な形相。
気に入った遊女を探そうなんて雰囲気は微塵も感じなかった。


あれは…そう、金目のある弱そうな女を探す。そんな雰囲気。
簪なんかでも、相当な金ななると踏んでのことだろう。
実際に吉原の女が身に付けているものは高価たが。




「はっ、私もなめられたものだな。所詮吉原の番人など吉原の者しか知らぬか」

「当たり前だ」




頭上からした声に、はっと顔を上げる。
一部始終を見ていたのなら加勢してくれたっていいだろうに。




「で、どうするんだ?」

「…対策について訊いているとするならば、私たちは何もしない。いや、できない」




この吉原から出ることなど、許されるわけがないだろう?
そう自嘲ぎみに言った私に、風間は表情を強ばらせた。


ここにいる遊女はいつも楽しそうに笑っている。
風間を見てカッコいいと言い合って、昨日相手した男の恥ずかしい行動を暴露し笑う。
話の内容はともかくとして、様子だけはきっと町人と変わらないのだろう。

だが、やはり違うのだ。
時折届く書物に描かれているほど、自由な人間はいない。
この狭い鳥籠の中でも十分だと思えてしまうほど、狂った神経の持ち主があふれている。

私も、きっとそのうちのひとり。




「風間、勘違いするな。私たちは吉原の外へ出ることなどできない」

「?…あぁ……」

「だからこそ、母はここにいた。だからこそ、私はここにいる」

「………」




あぁ、でも……


風間と離れるのは、嫌なんだ。




ゆらぐ

( どうすればいいのか判らない )
( 事がある度に吉原を離れられなくなる )




◎ヒロイン十分に悩んでくれ!
他の連載とか見ても、何かしら悩んでるから!!
20121206



 

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