ぬら孫 | ナノ
恋を知った
恋なんてわかんない。
恋なんてわかることなんてない。
きっと私にわかるときなんて来ないんだろう。
♪
「世名」
ゆっくりと振り向く。
世名の目に映ったのは義理の兄だ。
ルックスが良くクールなんて詐欺だ。
とか思うような性格ではないが、不覚にも格好いいと思うことはある。
しかし格好いいからどうというわけではなくて、ただ
『世間でいうイケメンなんだろうな』
と思うだけ。
あくまで花開院竜二は世名にとって兄でしかない。
「お義兄さん…」
世名も世名で、まっすぐな黒髪と綺麗な白い肌の持ち主であり、目を惹く。
自覚なんてもちろんないが。
『どうかされました?』
「…そろそろ此処も危ない」
『そうですか…それじゃあ私は関東にでも逃げましょうか』
「…式神は使えねーよな」
『冗談はやめてください。私には陰陽師の血は流れていません』
竜二は目を伏せた。
判ってるとかそういう意だろう。
羽衣狐が復活し京は闇に包まれた。
白である陰陽師は奴ら妖怪から逃げてはいけない。
かといって────
世名を放っておくのも気に食わない。
世名を守りたいという気持ちも竜二にはある。
義理でもなんでも妹には変わりない。
更にいえば、ゆらとは正反対な世名は、兄として守りたいという思いを一層強くさせる。
『もし…心配しているのなら大丈夫です。妖怪に襲われることなんてありませんから。
お義兄さんの全力で京妖怪を倒して下さい』
「…ありがとな」
世名は切なく笑った。
その笑顔が竜二を縛り付けた。
♪
「戻れ言言」
小さくため息をついた。
目を閉じれば世名の切ない笑顔だけが竜二の心を支配する。
ヤバイかもな、俺。
「なんかお兄ちゃん変やなぁ」
「なにがだ?」
「わからんけど悩み事?」
「…あぁ、ゆらの馬鹿さ加減に呆れてな」
ゆらの怒鳴り声がしたが、気にせずに歩いていった。
そして気が付く。
ゆらは悩み事かと聞いた。
今更になって自分は恋煩いなんだと竜二は気付いた。
余計に苦しくなった。
「くそ…世名。羽衣狐を倒したら…すぐに迎えに行く」
そう心に誓い、今まで以上に力を奮った。
これはこれでゆらを心配させたが。
♪
「世名!!」
『お義兄さん…?お疲れ様です』
冷めた返答の世名を、迷わず竜二は抱き締めた。
戸惑うだけの世名に小さく竜二は言う。
「お前が近くに居なくて不安だった…。俺はお前が好きらしい」
びっくりする程簡単な告白。
でも世名には応えられなかった。
『私っ…恋ってわからないんです、好きとか、そういうの…。
それに義理でも兄ですよ?』
更に強く抱き締める。
「兄妹だが義理だ。
それに…恋がわからないなら判るまで俺に夢中にさせてやる。覚悟しとけよ?」
そう言った竜二が格好良くて、
恋を知った
(恋なんて一生私には)
(関係ないと思ってた)
◎110908