ぬら孫 | ナノ

恋を知った





恋なんてわかんない。
恋なんてわかることなんてない。



きっと私にわかるときなんて来ないんだろう。









「世名」




ゆっくりと振り向く。



世名の目に映ったのは義理の兄だ。



ルックスが良くクールなんて詐欺だ。
とか思うような性格ではないが、不覚にも格好いいと思うことはある。



しかし格好いいからどうというわけではなくて、ただ
『世間でいうイケメンなんだろうな』
と思うだけ。



あくまで花開院竜二は世名にとって兄でしかない。




「お義兄さん…」




世名も世名で、まっすぐな黒髪と綺麗な白い肌の持ち主であり、目を惹く。
自覚なんてもちろんないが。




『どうかされました?』


「…そろそろ此処も危ない」


『そうですか…それじゃあ私は関東にでも逃げましょうか』


「…式神は使えねーよな」


『冗談はやめてください。私には陰陽師の血は流れていません』




竜二は目を伏せた。
判ってるとかそういう意だろう。



羽衣狐が復活し京は闇に包まれた。
白である陰陽師は奴ら妖怪から逃げてはいけない。



かといって────



世名を放っておくのも気に食わない。
世名を守りたいという気持ちも竜二にはある。
義理でもなんでも妹には変わりない。
更にいえば、ゆらとは正反対な世名は、兄として守りたいという思いを一層強くさせる。




『もし…心配しているのなら大丈夫です。妖怪に襲われることなんてありませんから。
お義兄さんの全力で京妖怪を倒して下さい』


「…ありがとな」




世名は切なく笑った。
その笑顔が竜二を縛り付けた。









「戻れ言言」




小さくため息をついた。
目を閉じれば世名の切ない笑顔だけが竜二の心を支配する。



ヤバイかもな、俺。




「なんかお兄ちゃん変やなぁ」


「なにがだ?」


「わからんけど悩み事?」


「…あぁ、ゆらの馬鹿さ加減に呆れてな」




ゆらの怒鳴り声がしたが、気にせずに歩いていった。



そして気が付く。
ゆらは悩み事かと聞いた。



今更になって自分は恋煩いなんだと竜二は気付いた。
余計に苦しくなった。



「くそ…世名。羽衣狐を倒したら…すぐに迎えに行く」




そう心に誓い、今まで以上に力を奮った。
これはこれでゆらを心配させたが。









「世名!!」


『お義兄さん…?お疲れ様です』




冷めた返答の世名を、迷わず竜二は抱き締めた。



戸惑うだけの世名に小さく竜二は言う。




「お前が近くに居なくて不安だった…。俺はお前が好きらしい」




びっくりする程簡単な告白。
でも世名には応えられなかった。




『私っ…恋ってわからないんです、好きとか、そういうの…。
それに義理でも兄ですよ?』




更に強く抱き締める。




「兄妹だが義理だ。
それに…恋がわからないなら判るまで俺に夢中にさせてやる。覚悟しとけよ?」




そう言った竜二が格好良くて、








恋を知った

(恋なんて一生私には)

(関係ないと思ってた)




◎110908



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