狐の孫
▼31.私の存在
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彼女の問題に私は関係ない。
だからあくまで見守るつもりだった。
でも、彼女は私を知らないんだから教えてあげないと。
私の存在を。彼女の存在を。
葛の葉なんて名の知れた妖に、私たち孫はそう簡単に勝てるわけないんだから。
* * *
「久しいね、鬼童丸」
私が知っている鬼童丸より老いた気がするけど、千年と経っていたら仕方がない。
気になるのは鬼童丸の外見なんかじゃなくて、抱えている女の人。
なぜか、私と似ている気がする。
「その人は、羽衣狐の依代?」
「……なぜ…貴方様が…」
私の話なんて、聞くつもりもないらしい。
それもそうだとは思う。
私は藤原氏が権力を維持していた時代に死んでいる。
私が存在していることが、まず可笑しい。
「気配を感じて地獄から甦ってきた…かな」
「気配………とは?」
「父上の復活と、私が生まれたこと」
………私は今、実体を持っていない。
幽霊、という妖に分類されるのだと思う。
私は、狐の孫が生まれる度に幽霊となって復活する。
それは、2人目の狐の孫…つまり百紅が生まれて判ったこと。
そしてもう1つ、判ったことがある。
私は狐の孫を依代とすることができる。
逆に、私は彼女に縛られてる。
あまり離れたら頭痛や目眩などを引き起こすし、なにも意識していなかったらただ彼女の中にいた。
彼女の見ているものを見て、彼女の聞いてるものを聞いて、彼女の心を知っている。
だからこそ、私は羽衣狐から彼女を守りたい。
でも………
「私、父上の復活は止めないよ」
「それで…いいのですか?百紅様は………」
「…そうだね。百紅は父上の復活を認めない。でも私は父上が好き」
今本音を漏らすことはしないけど、あわよくば彼女を父上に服従させたい。
この野望を叶えるためには、まず羽衣狐を身体から追い出さなきゃいけない。
それに、彼女の時間ももうない。
「とりあえず、その人渡してくれる?今羽衣狐が居なくなっても父上に差し障りはないの」
「………」
「鬼童丸。貴方が仕えたいのは羽衣狐じゃなくて父上でしょ?」
わざわざ言う必要は、ない。
鬼童丸は昔からそうだったんだから。
父上に忠実で、少し違う言い方をすれば過保護。
百紅のことは気に入ってくれてる。
でも、羽衣狐に仕えてるのは辛かったんだろうな。
「…一応これでも羽衣狐に対しての顔がたつようにしてるんだけどな」
「?」
「普通に追い出したら羽衣狐は存在が危うくなるよ」
困惑の色が見えた。
そうだよ、鬼童丸。
そのまま渡してくれれば全てが上手くいくんだから。
私の存在
( 父上が復活しても、死なせてなんかあげないよ? )
◎千が言ってた晴明の娘!!やっと登場させられた(^O^)
20120525
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