狐の孫
▼30.陰陽師は思う
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どのくらい経ったのかな。
高見の見物を決め込んでるらしいお姉様は、ただ座ってるだけ。
たまに楽しそうに笑うけど、焦っている様子もまるでない。
「お前、何者だ」
声の方向は後ろ。
このくらいは判るみたいだけど、真っ暗だし気配は感じないし…。
今までお姉様がいたあの人は、相当辛かったんだと思う。
生きてるのに、生きた心地がしない。
傍観者でしかいられない、もどかしさ。
『浮世絵中学校一年、豊臣百紅です』
「…羽衣狐との関係を言え」
『狐の孫、という妖怪です私は。4分の1だけが妖怪の血です』
またかって男が言った。
またか…?
4分の1に対しての“またか”だと考えていいのか。
………………リクオ君が4分の1?
リクオ君の人間の姿と妖怪の姿は全然違うもん。
不都合は出ないよね、これは。
「一応訊くぜ?狐の孫。なんで2つの「豊臣さん!?」…お前なぁ……」
ゆらちゃんだ。
あーあ、悪いことしちゃったな。
あんなに嫌だった、裏切り行為。
『花開院さん、驚きました?私、4分の1妖怪だったんです』
「…?」
あ……お姉様の負けだ。
私はゆらちゃんに敬語なんて遣わないし、妖怪なのはもう知ってる。
だからゆらちゃんは、気付ける。
「…おかしいなぁ思ってん。豊臣さんって2尾やし、それに…うちに敬語なんか遣わへんで?羽衣狐」
『ほう…。気付いておったか、陰陽師』
また、男の人の声が聞こえる。ゆらちゃんの声も。
詳細を聞いてるだけ、かな。
もう…敵になっちゃった。
ゆらちゃんたちは攻撃しないと確実にやられる。
そしたら、私1人の犠牲のがずっと小さい。
「羽衣狐、訊きたいことがある」
『……言ってみよ』
「羽衣狐が豊臣さんの身体に移ったってことでいいん?」
『そうじゃ』
…確認に、意味なんてない。
私は、狐の剃刀をおじ様に刺せただけでもう満足。
効果があったかはまだ判らないけど、奴良組の味方はできたんだから。
いつ死んでも構わない。
もとから、そういうつもりで屋敷を出たんだし。
でもやっぱり悔しいな。
もっと浮世絵中学校のみんなと喋りたかった。
千と過ごしたかった。
もうちょっとだけ…生きたかった。
ゆらちゃんたちに残された手段は、私を倒すことしかないんだもん。
未練がましいのだけは、いや。
「豊臣さん、待っててな」
ゆら…ちゃん………?
「必ず助けるから」
「おいゆら!!」
「竜二兄ちゃんは黙っといて!!!」
……ゆらちゃん…。
ゆらちゃんが諦めてないのに、私が諦めてるようじゃどうしようもない。
負けないよ、お姉様に。
私の身体は私のでしかないんだから、お姉様なんかに操らせない。
ありがとう、ゆらちゃん。
陰陽師は思う
( 絶対助ける )
( やれやれ、面倒なことになってきやがった )
◎地元方言・関西弁は書いてて楽しいです(*^^*)
20120402
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