狐の孫
▼28.伝えられない
28/32
「百紅も来てくれたのか」
お姉さまの声が頭の中に響く。
私にとって、お姉様は毒なんだと思う。
だって私は、お姉様に逆らえない。
意思と身体が違う動きをする。
だって、ほら。
「百紅、こちらへ来い…さすが妾の孫、忠実よのぅ」
…………狐の孫ってなに?
自分の意思も尊重できない妖怪って、人間以下だよ。
いや…妖怪に基本的妖権の尊重とかは、ない。
でもやっぱりおかしいよ。
千や氷麗ちゃんが私の手をとってくれるけど、それを振り払う。
でも狂骨ちゃんが私の手をとると、私の身体は動かなくなった。
「今から行きます!お姉様」
「待て」
鬼童丸だ。
狂骨ちゃんは鬼童丸を見て、不思議そうな顔をした。
私だって、同じだよ。
鬼童丸のしたいことが、判らない。
ずっと一緒に居たのに皮肉でしかない。
「百紅様、行きますよ」
ふわりと身体が浮く。
呑気なこと考えてる余裕はないのに、懐かしいって思った。
小さい頃、鬼童丸には姫抱きとか負んぶとかしてもらって甘えてた。
6歳を過ぎたときにはしてなかったけど、今改めてしてもらうと落ち着く。
やっぱり私は異質。
鬼童丸は敵なのに落ち着くなんてただのワガママ。
「死なないでください」
鬼童丸が小さくそう言った。
「晴明様が生まれても、なにがあっても。百紅様が死ぬ必要などございません」
……なんだか悔しいなぁ。私は判らなかったのに。
鬼童丸は私の一番の理解者なんだ。
千みたいな私絶対ではないけど、私の心境を判ってくれる。
味方ではない私に気を遣ってくれてる。
私のことを……
小さいときから、ずっと大切にしてくれた。
『……死なない、とは言いきれない。だって、おじ様も私も1度死んでるはずだから』
「百紅様は初めてです、外の世界に触れたのは」
『でも、流産した子はもう生まれてこないよ』
「………」
もっとゆっくり話したかった。
こんなお礼の仕方、失礼って判ってるのに。
『ありがとう』
「!?」
『私は、鬼童丸のことお父様だと思ってるよ』
「百紅…様……」
鬼童丸と2人で話せるのも最後かもしれない。
でも…そろそろ気を引き締めなきゃ。
お姉様の口角が徐々に上がる。
お姉様…、私はお姉様を止めたいです。
無理だってことは判ってます。
だからお姉様…それなら私を殺してください。
本当は私もおじ様も死ぬのが道理。でも私は生きたい。
だからおじ様の復活は、許しません。
私で…最後にしましょう?お姉様……。
伝えられない
( 鬼童丸にはちゃんと感謝を言えなかった )
( お姉様を止めれる自信もない )
( 思い通りには、いかない )
◎今更ながら誰落ちだこれ。
20120220
←◎→