狐の孫
▼27.小さな一歩
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剃刀、なんて呟いたら当然のように千から変な目で見られた。
でも、今一番鮮明に頭に浮かぶのは“狐の剃刀”って花。確か毒性のある花だったはず。
……狐の剃刀…………………。
『狐の孫ってどんな妖怪?』
「どんなって…妖狐の血が4分の1、人間の血が4分の3の……クオーターというもので…」
『そうじゃなくて…。狐の孫。その花と縁があるのは私だけだよ』
「!!そういえばこのような話を読んだことがあります」
千の話によると、清明の娘を主役にした物語を読んだことがあるみたい。
それでは、娘は清明以上に異端だったらしい。
常に花に戯れている。持ち歩けばいいものの、花を抜いたり折ったりするのが恐い、と。
狐の孫に対する、私の反応と同じ。
考えてみれば生きている花しか触ったことがないかもしれない。
また、その娘に嫌われたり恨まれたりした者は花に囲まれて死んでいたらしい。
それこそ、毒性のある、狐の剃刀みたいな花で。
『私は…狐の孫は、植物と仲の良い妖怪なんだと思う』
「しかしお嬢様、今のはお伽話です」
『どうだろう』
狐の剃刀が、一輪降ってきた。
私が念じたから。狐の剃刀、一輪、って。
他の花のことなんて判らないけど、間違いない。
狐の剃刀は、私の味方。
『清明の娘は知らない。でも、実際にその通りになってる』
「…………そのようですね」
『だから千』
「?」
ちょっと緊張して、呼吸を整える。
これで否定されたら、狐の孫って妖怪は本当にただ花と戯れているだけ。
『私は、ちゃんと戦えますか?』
「……私よりは戦えます」
『え?』
「羽衣狐様に関しても、妖狐に関しても、ただの狐ですからね。変化なんかはできますけど」
…そっか。お姉様はもともと、葛の葉って妖狐だ。
推測でしかないけど、清明の母なんだからきっとそう。
人間に化けて男に近付いた。
でも、羽衣狐が強いって話は嘘じゃない…なんで?
「羽衣狐様がお強い点の1つは、尾の数です」
『あ、お姉様みたいに9本もあれば、守りと攻撃の両方に使えるんだ』
「そう言った点では、私よりお嬢様のほうが強いのでしょうね」
違うよ。とは言わなかった。
私はきっと、尾を誰かに突き刺したりすることはできない。
自分を守るので精一杯。
言わないと駄目かな、とは思っても続きを促してしまった。
『もう一つは?』
「道具の数です」
『道具………』
「今までの転生の中で、羽衣狐様はたくさんの品を得てきました。妖刀もあるのでしょうね…」
『なるほど……』
その道具を尾で掴んでの使用も、きっと出来る。
尾の1つを守備に使ったとしても、10の手があるみたいなものなんだ。
そんなことを思った瞬間、妖気が爆発した。
同時に、遠くで鬼童丸が崩れる。
『清明…おじ様………』
「もう時間はあまりありませんね」
京妖怪の歓声が上がる。
私は、おじ様の転生を認めたくない。
だから、ちょっと小細工。
京妖怪にも、お姉様にも見えない場所…お姉様の後ろあたり。
そこに、狐の剃刀を差し込んだ。
斜めに、鋭く茎を切られた狐の剃刀を。
うまくいったかは判らないけど、最初から期待なんてしてないから気にしない。
それよりも、清明をどうするかが重要。
リクオ君。まだ、間に合うよ。
やがて大きな一歩になる
◎奴良組と絡めないっ(´;ω;`)
20120130
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