狐の孫
▼22.逃げ出した姫
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「お嬢様の尾は本当に柔らかいですが…。畏れを放ったときは本当にお固いですね」
『そうなの?』
何かあったときの為にって…千に色々教えてもらってる。
私の尾は、お姉様の尾よりも固いらしい。
「やはり九尾となると数が勝るので流石に強いですが…お嬢様もきっと負けず劣らずですよ」
『へぇ…。でもお姉様と戦うことなんてないと思うし…劣ってていいかな』
「向上心をお持ちください、百紅様」
『鬼童丸…』
京都に来てからも、鬼童丸とはあんまり会ってない。
きっとお姉様が忙しいから…。
それでも、他の妖怪とは違って私に会いに来てくれる。それは、嬉しい。
『どうしたの?』
「此処も少しばかり危険かもしれません。先程土蜘蛛が斬られました」
『土蜘蛛…?』
「京妖怪きっての強い妖です。…鬼童丸様、土蜘蛛を斬ったのは…」
少し、鬼童丸が暗い顔をした。
「恐らく奴良組だ」
「そうですか…」
『(奴良…組…?)』
深刻な表情をした2人に、何も言えない。
奴良組って…何?
奴良って…。リクオ君?
お姉様の敵は、リクオ君ってこと……?
「お嬢様は…リクオ様やゆら様…氷麗様のことがお好きでいらっしゃいますか?」
『好き…だよ?』
「………命じて下さい、お嬢様。この屋敷から連れ出してと」
「妖弧!!!貴様…!!!」
何か、危ない場所に立たされてる気がする。
危ない場所……奴良組と、京妖怪の間…。
そうだ。ゆらちゃんは確か陰陽師だった。
私は…すでに陰陽師の、ゆらちゃんの敵…。
「鬼童丸様…。恐れ入りながら、私が真にお使いしたいと思っていますのはお嬢様だけです。羽衣狐様はもちろん尊敬に値する方ではありますが、私にはお嬢様が全てなのです」
「……」
一気に話した千に、威圧感を感じた。
妖気は鬼童丸の方が強い。なのに、鬼童丸でさえも気圧された。
千は、本気だ。
「…すぐに行け。逃げられたということにしておく」
「ありがとうごさいます。行きましょう、お嬢様」
『……………』
何も言えない。だけど、逃げる気でいる自分がいた。
千が手を引いたら、抵抗することなく足が進む…。
さようなら。
その言葉が頭の中で何回も再生された。
逃げ出した姫
◎20111216
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