狐の孫
▼20.変わる距離
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前までずっとこうしてたのに何故かつまらなかった。
ベッドとソファーと机と椅子。それから大きな本棚。
前は同じ本を何度も呼んでたっけ。それだけで楽しかった。
一回目と二回目じゃ本の印象が変わって……。
でもそれだけじゃつまらない。
授業受けたり、リクオ君と話したり、カナちゃんとか氷麗ちゃんとかと女の子っぽい話をしたり…。
ゆらちゃんは陰陽師のステップ?を教えてくれたし、清継君だって妖怪のことたくさん教えてくれた。
みんなと話してるのが、楽しいんだ。
妖弧と話してるのだって楽しい。
でも鬼童丸と一緒だ。屋敷だからかな。
必要最低限のことしか喋ってくれない。
『!!!!』
「………どうか…されましたか?」
『………………封印が解けた』
変な感じ。血が熱いっていうか…。
私の中の何かが暴れだしそう。
何かっていうのは…妖怪?
「そうですか…。私は人間のお嬢様も好きでした」
『…私は私だよ。きっと……お姉様に呼び出される』
「既に呼び出されていますよ。帰ってきたらすぐ鬼童丸様が呼びに来られるようです」
『そう…』
帰ってきたら?そんなのすぐ判っちゃうよ。
お姉様と…鬼童丸の妖気が判る。あと妖弧も。
妖弧…?
これって妖怪の名前じゃ…。
『……お姉様に会う前に妖弧にお願い』
「なんでしょう」
『名付け親になっていい?』
「!!!!」
妖弧っていうのは狐の妖怪の名前。
なんでそんなことも判ってなかったんだろう。大事なことなのに。
私だって妖弧。確信はないけど、お姉様が羽衣狐だからきっとそう。
お姉様の孫なんだから。
妖弧はきっと苦しんでた。妖怪の名でしか呼ばれないんだもん。
私もお姉様も所詮“妖弧”なのに百紅とか羽衣狐とか…。
お姉様のことはよく判らないけどこれだけは確か。
此処には狐がたくさんいる…。
『いい?』
「嬉しい…限りで……す」
『泣かないの、千』
「千…?」
『私のお母さん、千姫の名前だよ』
「!」
『(私はお母さんを知らないけど…)妖弧…ううん、千にはぴったりだと思う』
私が東京に行ってから本当のお母さんみたいに私の世話をしてくれたし、私をいつも心配してくれてた。
…千はきっとお母さん以上。
これは、私から千へのお礼。プレゼント。
『こんなお礼じゃ小さいかな?』
「私には…勿体ないですよ……。
千姫は美しくてお優しくて…それでも可愛い方で……素敵な方です、お嬢様みたいに」
泣きながらそう言う千。
千はお母さんを知っているんだ。羨ましい。
でも…
似てるって言ってくれた。
『似てる?』
「はい、とっても!!」
『ありがとう、千。もっとお礼しなくちゃいけなくなっちゃった』
「とんでもないですよ!!」
近づいた。私と千が。
千はきっと…お姉様に命令されても、私が千に傍にいて欲しいって言ったら……。
『一緒に居てくれるよね』
「?…はい!」
『ありがとう。それじゃあ…また……。お姉様たちがもうすぐ帰ってくる』
「はい。お嬢様を貫いてくださいね」
『うん!』
行こう。封印は解けた。
私はまだ知らないことのが多いんだから。
変わる距離
( 千だけは私を裏切らない。例え鬼童丸が裏切っても )
( …私は……鬼童丸様のようになれましたか?お嬢様……… )
◎20111110
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