守り神
▼55.後から知った事実
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思い出したのは突然だった。正直言うと、凄い悔しい。
『ねぇ犬神』
「?」
『……今日学校休みだ』
「……」
昨日選挙があったんだもん先生が今頃必死に開票作業を…。
風紀の仕事にならなかったことは感謝。
あー、そういえば風紀も選挙あるのかなぁ。いや、三年間変わらないんだっけ…。
何故三年生がいないかというと、去年新たに出来た委員会だから。今は、二年と一年で構成されてる。
『……神様のとこ挨拶行こっか』
「俺と?」
『うん、私の神使になったんだから…神様には感謝しないと』
「感謝?」
『あー、犬神には言ってなかったか。じゃあ行きながら話す』
私が元人間であること。神様に力を借りてること。
自分がよく判ってないこと……。
判ってることはとりあえず話した。
驚きながらもちゃんと聞いてることが嬉しくて。
「俺も…元人間ぜよ」
『そうなんだ』
「どっちにしろ…ただの犬殺しに過ぎない……」
『悲しいの?』
「……判らないぜよ」
『なら犬神は犬神なんだから堂々としてればいいよ』
なんだかんだ言って、私は犬神が好き。犬神に色々教えてるようで、私が色々教えてもらってる。
堂々としてればいいんだ。
『まずは苔姫様』
「姫?」
『元人間』
あぁ、と言ったあと、犬神は背筋をピンと伸ばした。
緊張してるのかな。
…あれって。
『奴良組?』
「おや…守り神殿ではありませぬか」
『人間の私も覚えてくれてたんだ』
「貴方を最初に目にしたのは人間の姿でしたから」
『どうでもいいけど…人間のときは伊勢葵って呼んで欲しいな』
どうでもよくないぜよ、って呆れながら言った犬神はこの際全力で無視します。
…にしてもなんで奴良組が?
苔姫様は奴良組系の土地神だけど妖怪なんか滅多に会わないって言ってた。
なんかあったの…?
「つかぬことをお聞きしますが葵殿。知らないのですか?」
『え?あー、貴方のこと知らない』
「…黒田坊と申します、それはさておき…」
『?』
「葵様!!」
正真正銘苔姫様の声だ。
振り返るとそこには…えーと?
武装してる苔姫様が。え、武装?持ってるの長刀だよね、うん。
『苔姫様…?えーと…』
「私から説明を。数日前、四国妖怪が土地神を襲ったのです」
『……四国妖怪が?』
「襲った妖怪は私が…」
そこで黒田坊さんは言葉を濁らせたけど、言いたいことは判った。
びっくりするくらい殺気立ってる私がいた。
『…犬神は関係ある?』
「な…ないぜよ」
『そう…』
こうなったら全力であの狸血祭りにしないと…。
妖怪には妖怪の領分がある。それが判ってない馬鹿は…
消えていいよ?
「お前……殺気が…」
『あの狸許さない…。黒田坊さん、リクオ君に言っておいて?今日奴良組行くって。当分は奴良組に加勢する』
桜さまの許可とかもうどうでもいい。
桜さまが止めたって止まるつもりはない。
…私は……妖怪の領分に足を踏み入れることになるのかな?そしたら桜さまはなんて言うだろう…。
人間だからいいよとか。
そういう話にはならないだろうか…。
『あー、むしゃくしゃしてきた』
言いながら自分の手を見ると、普段より大きい大人の手。
はは、こんな気分悪い神化も初めてかな。
『行くよ犬神。苔姫様は黒田坊さんに任せる』
「俺はいつでも行けるぜよ」
「判りました」
行こう、他の神に力を借りる。
夜神なんかに会えたら妖怪に手出ししてもいいのかな。
まぁ天上にでも行かない限り土地神にしか会えないけど。
遠慮がちに私に近寄る苔姫様が、視界に入った。
「葵様…無理するでないぞ」
『十分承知です…でも……』
「?」
『無理させてください』
私は、その後何も言わずに…言えずに神社を出た。
後から知った事実
( 妖怪が何? )
( 私の大事な人を傷付けてただで済むと思わないでね? )
◎セリフが多いと銀魂みたくなっちゃう…
2011
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