守り神
▼51.ややこしい
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リクオの祖父が去ったあと、部屋は静かだった。
この家に話し掛けても返事なし。
大事にはされてると思うんだけどな。
口が固いみたい。
『リクオ、お願いだから早く入ってよ』
少し沈黙があって、ゆっくりとあく襖。
「お前、危なくねーか?」
『は?』
「酷く曖昧にしか感じれねぇ」
『だろうねー…。でも大丈夫だから。まず犬神が先』
…なんか可愛い。
リクオと犬神がお互いに遠慮してんだけど。
オドオド感が凄いよ!!
犬神はともかく…。
リクオがきょどってるとか全力で笑っていい?
「…なにニヤついてんだ?」
返答しようとして無視決めた。
肯定したくない。
『犬神、決心はついたよね?』
「…勿論ぜよ、俺は…」
『言わなくていい。犬神が私のこと信頼してるの…感じてるの』
昼間は憎悪で溢れてた。
その犬神をこんなに変えられるほど何かしたっけ。
狸と離れたから…って理由にしときたい。
あの狸はきっと、周りに影響及ぼすだけの力を持ってるから。
『…それじゃあ保護者にでも会いに行こうかな。色々聞きたいこともあるし』
「こっちだ」
『いつもありがとね、リクオ』
これからが勝負ってことで。
そういえば、犬神しか想い感じることできないかな。
桜様とか判ったらいいのに。
リクオでもいいから判ったら…
思いっきりいじれるのに。
「…なに笑ってんだよ」
さっきもこんなのあったし。
私はやっぱりリクオを馬鹿にしたくて仕方がないんだ。
『別に。ただなんというかリクオってねぇ…』
「なんだよ」
『ねぇ?犬神?』
「そ…そうぜよ」
「意味わかんねー」
そんな馬鹿っぽい話をして。
桜の木の下まで来た。
叫ぼうとして、やめた。
神化はしてないのにいつもより力が強い気がする。
桜様。
来てください。
「!?」
『犬神も神気を感じるんだ』
「神気…これが?畏れにしか感じないぜよ…」
畏れ。
そういえばいつだか“畏れ”の戦いだって聞いたな、妖怪は。
でも…この神気は違う。
いつもの桜様じゃない。
ぽぅっと現れた桜様。
あたし…なんかしたっけ。
凄い睨まれてない…?
「葵…無理しすぎだ」
『…やっぱりそうですか』
「やっぱりの意味判ってんのか」
意味は判ってますよ流石に。
ただ何がやっぱりなのか判らない。
ふるふると首を振ると桜様は、はぁ…と溜め息をついた。
「説明は後だ。
“神々に申す。一時的に我らの主との繋がりを途絶えよ”」
『んっっ…!』
今まで少し浮遊感があって、いきなりズドンと落とされた感じ。
魂が戻ったってこと?
「今…お前は神になれない」
『…へぇ』
「曖昧な返事をするな。
となかくだ。お前は力を使い過ぎて今の体じゃ耐えられなくなった。だから…神になりかけた」
なりかけた…?
私が使った力は…人間の私が受けとめられる力じゃなかった。
だから私は…人間を捨てかけた…か。
「…力を求めたいのならいつだかの…牛若丸…と言ったか?あの時のように力を貸してくれる神を探せ。
私や苔姫もお前に力を貸してるのを知ってるだろう?
そうしてくれる神々はきっと少なくない。まぁお前と会ってないと力を貸すことは不可能だが。
その神が望もうと」
私はもっと強くなれる…ってことか。
求めれば。
そう促すってことは桜様は私が強くなることを望んでいる。
桜様には感謝しきれない。
私に沢山のことを教えてくれたから。
だから…強くなる。
『私…強くなります』
「そうか、ところで…若頭の横にいる妖怪は?どうやら盃は交わしてないようだな」
忘れてた。
ややこしい
(それより桜様、もっと話を簡潔にしてください)
(やかましい!!!)
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20111022
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