幸せでしたか? | ナノ

03.偶然と必然

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頃合いを見て団子屋に向かったところ、よっちゃんがひょっこり顔を出した。


私を認めて、綺麗に笑った




【偶然と必然】




人気なだけあって、いつ食べてもここの団子は美味しい。
新しく売り出す味噌団子の試食もさせてもらったけど、それもやっぱり美味しくて。




「よっちゃん、私ここに住みたい…」

「えぇ?ダメに決まってるでしょ?私は大丈夫だけど小町が」

「だよね、なんだかなぁ…」




叔父が私を引き取ってくれて、“兄のひとり娘だ”ととても大切にしてくれてる。
ただ、ちょっと度が過ぎているかなとは思う。
本当に、娘が如く育てられている。
同い年の男の人と話しているのを見た途端怒るような人だから。私じゃなくて男の人を。

向かいの長屋に住んでる友人も、何度怒られたことか。
ちょっと申し訳なくなる。




「そういえば今日してないんだね?」

「なにが?」

「簪」

「……え?」




焦って鏡を取り出す。
それに映るのはただ纏めただけの髪。


いつ?どこで?
朝出るときは確かにあった。

太陽はもう頭上にあって、お昼時。
家を出たときにはまだ太陽は出たばかりで、朝日が眩しいと感じたのを覚えている。
つまりは、いつ落としたかなんて判んないし、場所なんて尚更判らない。




「ど、しよう…」

「あぁ泣いちゃだめだって。捜すの手伝うから、ね?」

「よっちゃん…ありがとう」




そんなやりとりもあり、日が暮れるまで簪探しをしたわけだけどやはり見付からなかった。
ここまで探して見付からないのなら、京に来るまでに落としたに違いない。

でもそれは




「…もう誰かに拾われてる」

「そんなことないって!大丈夫…!!」




必死に説得してくれるのはすごく嬉しい。
でも、変に期待してそこから落とされるのは、嫌なんだ。




「よっちゃん、なにかお団子食べさせて?もう帰らないといけないから」

「…そっか」




ごめんね、よっちゃん。
簪探しに付き合わせたあげく私のが先に諦めちゃった。
よっちゃんはまだ諦めてなくても、私が諦めたらよっちゃんはどうしようもないのにね。


団子屋特有の、赤い布のかけられた椅子に腰掛ける。
よっちゃんの淹れてくれたお茶がいつもより美味しく感じて、泣きたくなる。

よっちゃんは暖かい人だ。昔から変わらず。




「あの…」

「いらっしゃいませー」




どこか妖艶さを感じさせる声に、小さく顔をあげる。
見れば高そうな着物を着た、美人な女性がいた。
……本当に綺麗な人で、見入ってしまったのは秘密。

彼女はなにも言わずに私の隣に座ると、なにかを差し出してきた。




「これは…」

「貴方のですよね?簪を探しているという話を耳にしたので」




彼女になんとお礼を言ったらよいか。

そんなことが頭を埋め尽くしていて、なんだか変な感じだ。
いつもならきっと“見付かって良かった”だろうに。




「あの、ありがとうございました!なにかお礼を…」

「いいですよ、このくらい。偶然拾っただけなんですから」




彼女は軽く会釈をし、姿を消した。


簪を拾ったのは確かに“偶然”かもしれない。
でも、私と彼女の出会いは“必然”だと思えて仕方がなかったんだ。




◎20120509



   

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