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02.京の町

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簪を丁寧に取り付ける。
この簪は、亡くなった両親から譲り受けたもの。
家や財産…人脈と沢山のものを残してくれた両親だけれど、私のためだけのモノはこれしかない。

だからこれを身に付けているとき、私は二人を強く感じることができた。
会いたいって思うことがあっても、これさえあれば大丈夫。
“母さんと父さんは此処にいる”って言っている気がして。


これから私は京に行きます。
母上、父上…私のことをお守りください




【京の町】




久しぶりに来る京の町は、幾分か緊張感があった。
道を我が物顔で歩く攘夷浪志に怯える町人、そして、新選組………。
楽しく商売を営む人たちもいるけど、今の京はそれがぱっとしない。

私だってその“怯える町人”になるわけで、どうしたものやら。


幼い頃からの友人・よっちゃんはとある団子屋の娘で、巷でも看板娘として評判。
その子と会う予定なんだけれども、客に足止めを食らっているのかまだ来る様子はない。




「(……ちょっと探索しようかな)」




よっちゃんが来るまでまだしばらく時間はありそう。
京の町は日々変わってゆく。
私が知らない場所だってたくさんあるはずだから。

そして、間違い探しみたいで面白いことも私は知っている。
よっちゃんを待つのはこれが初めてではない。
何度も何度も、この町を一人で歩いた。その度に此処は生きていると感じる。

変わらないものはないなんて言うけれど、実際そうなんだと思う。
人が変われば町が変わる。
町が変われば、人も変わる。
両親が亡くなったとき、私の時間は止まった。けれど、よっちゃんとこの町が“今”に連れてきてくれた。




「おう小町ちゃんじゃねーか」

「えっと…?」

「父さんの友人の…」

「あぁ!お蕎麦屋さんの!」

「そうそう」




……こういう出会いも、楽しいと思うから。




◎20120430



 

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