2012!!
▼団長、
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重い身体を無理やり起こし、なんとか船に辿り着いた。
もうあのときの私は、必死だった。必死すぎて笑えるくらい。
そのくらい、どうしても早く帰りたかったの。
「団長喜ぶどころか怒るだろこれは…」
「はっ、は……、しょうがなくない…?だって団長には…嫌だったし……」
阿伏兎も無理でしょ?
そう付け加えると目の前の彼は申し訳なさそうに目を伏せた。
明日、6月1日は我らが団長の誕生日。あの団長の誕生日。
忘れてたらなにかされそうって思いはもちろんあったけど、それ以前に彼は尊敬に値する存在。祝いたかった。
なのに、
「あっ、んのアホ……ほんとに、殺したいんだけ…、ど……っ」
アホというのは皆さんご察しのとある上司なんだけど、本当に死ねばいい。
よりによって、団長の誕生日当日に仕事入れてきやがった。正確には今日から明日、つまり誕生日までに。
しかも達の悪いことに、女の夜兎の集団。
私としては団長に血を流して誕生日を迎えさせるなんてしたくなかったし、阿伏兎は共食いが嫌い。
となるとどうだろう。
副長補佐である私に専属の部下はいないからまぁ、ひとりで行けと。そういうことだ。
もちろん、ひとりで行って仕事は終えてきた。
春雨配下になってもいいって子が居ればまだ楽だったんだけどな。私はあの団長の部下だからね、容赦なく皆殺し。
自分の性格ももう終わってるなとは思うけどそんなことはもうどうでも良くて、ただ団長の役に立ちたい。
「本当に…上司想いな部下だなお前さんは」
「………団長と、副団長に限りっ……、だから」
「団長に限り、だろ」
えへへ、とあどけて見せる。阿伏兎は間違ってない。
かといって、阿伏兎を嫌っているなんてことは絶対にないのだけれど。
「も…すぐ、着く……?」
「あぁ」
「お…っしゃ………団長……待っててください……」
会って一番に言うんだ、誕生日おめでとうございますって。
だから団長、それまで待っていてください。
* * *
「ねぇ阿伏兎」
「………なんだよ」
「なんで世名はひとりで仕事終わらせた挙げ句に寝て帰ってくるの?」
言いながら、張り付けの笑顔を浮かべる。それだけで阿伏兎の表情が曇るのだから、面白くて仕方がない。
もとはといえば勝手な行動した世名が悪いんだけどさ。
相手が女とか関係なしに、暴れたかった。躊躇するだろうことは否定しないけど。
まぁ……世名の寝顔見れて嬉しいとは、思う。
顔や衣服についてる紅もただの飾りにしか見えない。夜兎特有の白い肌とのコントラストが綺麗で。
尚且つ、たまに聞こえてくる寝息が愛おしくて仕方がない。
「…あんたも世名ゾッコンだな」
「阿伏兎だってそうじゃないか。シスコン」
まぁ年齢差を考えれば親子愛とかのが近いけど。
とか適当に考えてたら世名の小さな声が聞こえた。 最初は聞き取れなかったそれも、だんだんとはっきりしてくる。
まぁ寝ているからいつもよりも緩い感じだけどね。
「だ…んちょ……」
「うん?」
「た、じょうび…おめでと……ございます………」
……あ。今日俺誕生日だったっけ。
世名が寝言で祝うほどしっかり覚えてたのに、まるで覚えてなかった自分に呆れる。
あぁ…そうか。だから世名は
「俺に仕事のこと言わなかったんだ」
「血を流させたくなかったんだとよ」
「あー……言いそうだねそれ」
世名は未だ起きないけど、嬉しかったから良しとする。
誕生日おめでとうございます
( だだだ団長 )
( ん? )
( 誕生日おめでとうございます!! )
( それもう聞いたよ )
( えぇ!? )
◎遅れてごめんなさい!
20120607