ひびの入った
▼36.感謝
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いきなり呼び出されたかと思えば、なんですか?
とても可笑しな、っていうかあり得ないことを真顔で言ってるコイツはなんなんだろう。
『………総合病院は混むしなぁ』
「おいおい勘弁してくれよ。こっちは真剣な話してんだ」
『真剣だから余計困ってんの。まぁ元から何年も留年する頭なんだけどさ』
“お前とあいつは本当の兄妹か?”
これが阿伏兎の第一声。
あいつっていうのは説明するまでもなく、阿伏兎と同い年の優秀なお兄ちゃん。 ………あたし、兄のことなんて呼んでたんだろう。
それは置いといて、とりあえず阿伏兎が可笑しなことを口走ってるわけで。
『阿伏兎は一番あたしたちの近くに居た。だから判るでしょ』
あたしよりも。そう付け加えて、さっき自販機で買った紅茶を飲む。
小さい頃から紅茶ばっか飲んでたけど、理由は覚えてない。
覚えてないくらいだから、きっとくだらないことなんだろうけど。
体育大会の件だって片付いてないのに、なんでまたそんな厄介なこと。
今となっちゃあたしには調べようもないのに。
………ただ、もし、あたしが両親の実の子供じゃないとしたら………納得がいく話ではあるけど、ね。
虐待されても当然。実の娘じゃないんだもん。
『阿伏兎は調べたいこと好きに調べていいよ、あたしのことは』
「プライバシーとかあるだろーが」
『許可する、漏らさなければ』
「……そうかい」
阿伏兎があたしのことを調べるっていうことに、恐怖心があったりはしない。
だって問題があったとしても、阿伏兎は解決してくれる。自分ひとりでは無理な場合は、ちゃんとあたしに言ってくれる。
…………あたしってこんなに阿伏兎のこと信頼してたんだ。
『とりあえず、体育大会の件も宜しくね?』
「そっちはだいたい確定したが…理由が見当たらねぇ」
『誰よ』
「理事長」
『………自分で特別ゲストって言うんだ。校長あたりかなとも思ってたんだけど』
なんというか、まぁあれだ。
今から理事長のとこお尋ねしていいですか?全く変なことは考えてないから。切実に。
元々暴力は嫌いだから竹刀持ちながら問いただす程度に……
「それを強迫って言うんだよ」
『………』
「なんだよ」
『…なんか読心術久しぶりだなぁとか思って』
ラストいつだろう。なんだか懐かしいよ。どんなに呆れられようとも、懐かしいもんは懐かしい。
例え阿伏兎から呆れ顔で見られても今回は許す。
あぁ、そういえば神威にも呼ばれてたような?
…………
『用件は以上?』
「あぁ」
『じゃああたし神威のとこ行って来る』
「おぅおぅ行ってこい」
間がない急テンポな会話が楽しくて思わず顔が緩む。
あたしにとっては、お兄ちゃんより阿伏兎のがお兄ちゃんだった。こう話してると、本当の兄妹みたいでくすぐったい。
『阿伏兎』
「あ?」
『ありがとう』
「?…あぁ」
判ってないだろうけど、言う必要はない。あたしだけが阿伏兎を慕ってればいい。
阿伏兎お兄ちゃんなんて、今では呼べないけど今でもそう思ってる。
あたしは阿伏兎に、感謝の気持ちを伝え切れたんだろうか。
感謝
( なんか和と阿伏兎の会話って兄妹みたいだよね )
( 他人から見てもそうなんだ )
◎阿伏兎とのあったかい話が好きな管理人。
20120609
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