ひびの入った
▼24.2つの強さ
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『師匠!』
「?」
少し振り向いた師匠。
でも空耳だと思ったのかまた前を向いて歩いてく。
駄目だよこれじゃ。距離がありすぎる。
『師匠!!私です、師匠!!!……(気付いてください…)』
もう無視を決め込まれた。
無視っていより…暗示。空耳に決まってるって。
あたしが呼ぶ度にびくんって肩が揺れる。
変わらないなぁ、師匠は。
嬉しいことが確信に変わるまで喜ばない。
自分に厳しいんだよ。
『師匠!鴻山和です!!』
「!!!…和……!?」
気付いてくれた…。
結構全力で走った。
遠くにいた師匠に気付いたあたしの目、尊敬できるかも。……じゃなくて。
やっと会えた。
「和…か?」
『そうですよ、師匠』
「……」
信じられない。顔がそう言ってる。
あたしも信じられない。今日久しぶりに会いたいと思って会えたんだから。
何年ぶりだろう…。
「久しぶり…だな」
『はい…師匠は元気でしたか……?』
「おう…」
駄目だ。久しぶりすぎる。何喋ったらいいのかわかんない。
師匠も普通に接してくれればいいのに。
『…そういえば師匠って今何をなさってるんですか?』
「あー、俺さ、教師やってんだわ」
『師匠なら…できるでしょうね。体育とか』
「いや、国語」
『(国語!?)…師匠が?』
「なんだよその疑わしそうな」
『ナンデモナイデス』
「……………」
国語かー…師匠が。あ、じゃあ先生とか呼ばれてるんだ…。
なんかやだなー、あたしが唯一の教え子だったのに。
「何?和ちゃん焼きもち?先生剣道は和にしか教えてねーから」
『嫉妬なんかしてません。師匠って呼ぶのはあたしだけですよね』
「あぁ」
『それで十分です』
そっか、って言って空を仰ぐ。
あたしはこの師匠に憧れた。いや、今だって憧れてる。
でもそれだけだった。憧れるだけだった。
綺麗な銀色の髪が太陽の光でキラキラ輝いて…。
目だって輝く。
あたしが空を見てもただ“見てるだけ”なんだろうなって。
尚更憧れた。
でもそれで終わらなかった。憧れてただけの師匠があたしに話し掛けてくれたんだ。
「強くなりたいのか?」って。
あたしは『うん』とだけ答えた。
『…あたし…師匠以上になりたいんです』
「なにが?」
『強さです。心も体も。みんなを許せるくらいの大きな心が欲しい。みんなを守れるだけの力が欲しい。
………あたしはまだあの人たちを許せないから』
「ふーん…」
あたしは心が狭い。
小学生の頃の話なのに。まだ許せない。
会うことだってもうないのに。
「ところでさ」
『?』
「お前それ何処の制服?」
2つの強さ
( あー…判りません? )
( 和って不良だったっけ。判りたくないんだけど )
( 判ったと見なします )
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20111106
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