ひびの入った | ナノ

ひびの入った

24.2つの強さ

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『師匠!』

「?」




少し振り向いた師匠。
でも空耳だと思ったのかまた前を向いて歩いてく。


駄目だよこれじゃ。距離がありすぎる。




『師匠!!私です、師匠!!!……(気付いてください…)』




もう無視を決め込まれた。


無視っていより…暗示。空耳に決まってるって。
あたしが呼ぶ度にびくんって肩が揺れる。

変わらないなぁ、師匠は。
嬉しいことが確信に変わるまで喜ばない。
自分に厳しいんだよ。




『師匠!鴻山和です!!』

「!!!…和……!?」




気付いてくれた…。


結構全力で走った。
遠くにいた師匠に気付いたあたしの目、尊敬できるかも。……じゃなくて。

やっと会えた。




「和…か?」

『そうですよ、師匠』

「……」




信じられない。顔がそう言ってる。
あたしも信じられない。今日久しぶりに会いたいと思って会えたんだから。

何年ぶりだろう…。




「久しぶり…だな」

『はい…師匠は元気でしたか……?』

「おう…」




駄目だ。久しぶりすぎる。何喋ったらいいのかわかんない。
師匠も普通に接してくれればいいのに。




『…そういえば師匠って今何をなさってるんですか?』

「あー、俺さ、教師やってんだわ」

『師匠なら…できるでしょうね。体育とか』

「いや、国語」

『(国語!?)…師匠が?』

「なんだよその疑わしそうな」

『ナンデモナイデス』

「……………」




国語かー…師匠が。あ、じゃあ先生とか呼ばれてるんだ…。

なんかやだなー、あたしが唯一の教え子だったのに。




「何?和ちゃん焼きもち?先生剣道は和にしか教えてねーから」

『嫉妬なんかしてません。師匠って呼ぶのはあたしだけですよね』

「あぁ」

『それで十分です』




そっか、って言って空を仰ぐ。


あたしはこの師匠に憧れた。いや、今だって憧れてる。
でもそれだけだった。憧れるだけだった。

綺麗な銀色の髪が太陽の光でキラキラ輝いて…。
目だって輝く。

あたしが空を見てもただ“見てるだけ”なんだろうなって。
尚更憧れた。

でもそれで終わらなかった。憧れてただけの師匠があたしに話し掛けてくれたんだ。
「強くなりたいのか?」って。
あたしは『うん』とだけ答えた。




『…あたし…師匠以上になりたいんです』

「なにが?」

『強さです。心も体も。みんなを許せるくらいの大きな心が欲しい。みんなを守れるだけの力が欲しい。
………あたしはまだあの人たちを許せないから』

「ふーん…」




あたしは心が狭い。
小学生の頃の話なのに。まだ許せない。

会うことだってもうないのに。




「ところでさ」

『?』

「お前それ何処の制服?」






2つの強さ

( あー…判りません? )
( 和って不良だったっけ。判りたくないんだけど )
( 判ったと見なします )




◎未だ名前が出てない師匠。出すの忘れただけ←
20111106




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