ひびの入った
▼10.本当の強さを見てない
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『ねぇ阿伏兎』
「どうした渚嬢?」
和と阿伏兎が耳打ちを始めた。
阿伏兎の分際で生意気なことをする。
今日は俺の希望で海に来たんだろ?
『んー…制服じゃないと嫌だな、気分が』
「あんのかよ!?」
『いえす』
「海でか…」
『うん、そういうことで神威、着替えてくる』
…どういうことで?
そういうことが何か俺は知らない。
阿伏兎に教えてもらうのは気に食わない。
けど…知らないままの方が気分悪い。
「阿伏兎、どういうこと?」
「…あそこ見ろ」
言われた通りの方向を見ると男の集団がいた。
見覚えがある。
あれは…。
「春雨の連中だ。尾行でもしてたのかぁ?
渚嬢には散々負けてんだ。諦める気にはならないもんかねぇ」
「……思い出したよ、渚のこと。俺春雨高校にいたからね」
マジかよくらいの反応はあると思ってたんだけどな。
阿伏兎は何も言わなかった。
少しは気、遣ってくれてるのかもね。
…──渚。
春雨高校の宿敵とされ、詳細は関わった人しか知らない。
性別、学校、年齢…。
全てが謎。
あるのは渚というあだ名と、圧倒的な強さ。
春雨の奴らがボコボコになって帰ってきたから相当。
それが…渚?
『おまたせー、2人とも。じゃ、早速行ってくるよ。
とりあえず喧嘩したくないから口で押してみるけど…』
とか言いながら1人で和は行った。
春雨相手で口喧嘩が通用するわけないのに。
でもこれは見物だね。
俺はまだ
本当の強さを見ていない
(俺と和の喧嘩じゃ…まだ本気出してないよね)
(…あの程度だったら俺ぁこんな苦労してねぇよ)
◎110731
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