首輪をつけないと、と月世が言った。そうだな、と三成は相槌を打つ。しとしとと雨の降る音が聞こえる。

「お萩、食べますか」
「いらん」
「おいしいですよ」

子犬は布を敷いた籐籠の中で眠っている。三成はやっと空いた膝に頭を預けて、ぐりぐりと月世の腹に擦り寄る。先程官兵衛に触れていた指先がうなじの辺りを撫でた。あの男に触れた部分の皮を剥ぎ取ってしまいたい。苛立つ。のそりと体を起こし細い手首を握った。月世が瞬く。指を絡ませた。小さな肩に頭を置く。三成は目を閉じた。

ああそうだその通りだとも。大柄の軍師の言葉に三成はくちびるを噛んで答える。この人間に喪うことを考えると、心臓を冷たい手で鷲掴まれる心地がする。月世の愛は、喪失することを怖れさせる愛だ。三成を揺さぶって波紋を立てる。

いつだって考えている。私が月世の隣にいるのに何が足りないのか。どうすればいいのか。


「ふふ」
「……何故笑う」
「だって、くすぐったいんですもの」
「…フン」

繋いだ手が温かい。首筋に赤い歯型があった。妙な気分になる。傷跡を舐めたら、月世が飛び上がった。面白かったので、また喉笛の辺りを舐めた。月世が怯んだ隙に、そのままくちびるに噛みつく。熱い口腔を舐めた。探った奥歯が甘い。

「……ん、……餡子か…」
「…………」

月世は赤面して沈黙している。耳まで赤い。繋いだ手に熱が籠って汗ばんでいた。逃がさないように、ぎゅうと握る。緩んだ衿を肩から落とした。



金木犀は雨で流れてしまったようだ。雨戸を閉めてしまったので、雨がいつ止んだのかは知らない。





(111123)


 
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