長と一月ぶりに会った。またいささか胸を揉まれたが、お前は反応が薄くて面白くないなー、と言っていた。かすがとは大違い。つぶやいて、長は鴉の喉を手甲を付けたままの尖った指先で掻く。鴉の漆黒の丸い小さな目が瞬いた。

「お前はしのびの手本みたいだ」
「はぁ、そうでしょうか」
「うん、俺なんかよりよっぽど」
「………」
「旦那とは上手くやれた?」
「………なんとか」
「ふぅーん」
「………」
「真田の旦那、優しいでしょ」

長はニヤニヤといやらしく笑う。鴉がガァと濁った音で鳴いた。黒い羽根が舞う。



任務の途中で腕を切ってしまった。左手に、すっと細長い傷。軟膏を塗って布を巻く。血が滲む。忍装束から目立たない色の小袖に着替える。包帯は隠れた。



あなたに強く腕を掴まれた。眉間に深い皺がよっている。なんだろうかと思っていると、あなたがわたしの左袖をぐいと上げた。

「誰にやられた」
「………わかりません。もう殺してしまいました」

痛みは。あなたが包帯を睨みつけて言う。わたしは、ありません、と言った。あなたはますます眉根を寄せた。

「そんなはずはなかろう。血が、こんなに」
「……いえ、特に痛みは…」

やわく腕を掴むあなたの手が布越しにもあたたかい。火のようだ。あなたはなぜか憤慨したような顔をしている。

「痛いなら痛いと言え、ばかもの」
「……はぁ…」
「……………うりゃ!」
「!」

きゅうと傷口を人差し指で押されてびくつく。あなたは、ほれ、言うてみよ、と促す。うろうろと視線をさ迷わせたところに、また。思わず口が開く。

「い、いたい」
「うむ、さようか。見舞いの品に、団子をやろう」
「は、いえ、」
「うまいぞ」
「あの」

あなたが持った団子のみたらしがてらりと光る。柔らかい餅がくちびるを突くのに観念した。そっと口を開ける。一口かじると団子は離れていった。

「………おいしい…」
「だろう?」

にこりと笑うあなたの、その真っ直ぐさに耐え切れない。わたしの両目では、受け止めるのに、足りない。苦しくて口を開けたら、またみたらし団子を口に入れられた。





(110210)

 
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