小説
死ネタ / 男主

確かに、胸にぽっかりと穴が開いたのだ。不可解な虚無感に襲われた感じがした。徐々に蝕まれていくわけでも、はたまた腐り落ちていったわけでもない。けれど、柔らかな砲弾が痛み1つ感じさせず貫通していったような、唐突で、理不尽で、回避のできないことだった。
この胸のこんなにも大きな部分を占めていたものが何だったのか、何を期に消え去ってしまったのかは分からない。抉り抜かれたその穴を埋める術も知らない。ただ、きっとどうあがいても見つからないのだろうことだけは心が理解していた。
抜け殻のような生活をしていた僕に、そんなに大きな穴が開くほどの何かが存在していた。それだけもう十分だった。

テレビ局の方が騒がしい。布を被った生き物がたくさん浮かんでいる。子どもが考えたおばけのようだけど、それが動いているとなるととても気味が悪いもののように思えた。
それに遠くの方では大きな恐竜だとか妖精だとか、現実味を欠いた生き物が活動をしているけれど、そちらは何故か懐かしい。

いや、どうでもいい。ああ、でもどうせならあの時、太一に誘われたキャンプくらいは参加すればよかったなあ。学校へ行かなくなってずっと引き籠っていた僕に、根気よく話しかけて忘れないでくれていた唯一の友達。大好きだった。

上が下なって、下が上になった時に、後ろのポケットに入っていたものが飛び出て一緒に宙を舞う。ピピピ、と耳に届かない程度の音で存在を必死に知らせていたソレは、8人の選ばれし子ども達が持っているデジヴァイスと紋章、それと同じものだが、大切な空虚を胸に抱いて落ちていった彼が知る由もない。


-----------------

生きることをやめた引きこもりの少年と、命を賭して親友を守った電子生物は、お互いが選ばれた存在であることも知らず、出会うこともないまま、落っこちて行ったのです。

150317
- ナノ -