小説

司郎君さえいてくれれば全然つらくない。だけど、君がいない世界で生きていくのはとてもつらい。宮田という存在がどういうものなのかを知って、まず私が思ったことは、『死ぬときは、彼の手によって殺されたい』というものだった。彼の手が私を終わらせてくれるのなら、私は彼のいない世界に取り残されることはないのだから。
彼の生い立ちのうち、私が占める割合は所詮ほんの少しにしか過ぎない。私がこの村の歪みを察している事実を知れば、宮田の名を背負う彼はきっと私のことを殺めてくれるだろう。

首を包み込む彼の生暖かさを感じる。ドクリと首の血管が脈打つ。27年間、彼と同じ時間を生きてきて最も近い距離だった。これから私達はその時間を違えるけれど良い冥土の土産ができた。このまま、彼の温もりを感じてイきたい。ああ、なんて幸せ。幸せすぎて、

「司郎、くん…」

死ぬのが惜しい、だなんて。本当はその手でもっと触れて欲しかった。隣を歩くだけじゃ足りなかった。もっと触って、撫でて、抱きしめて欲しかった。彼のいない世界は嫌だけど、彼を感じられないまま死んでいくのは寂しすぎる。欲望だらけの未練が溢れてくる。なんて浅ましいのだろう、私は。
唐突に、窄まり絞まっていく首の苦しさが開放される。遠のく温かさが私の身体を包み込んだ。暗くて見えない。でも、何をされているのかは理解した。どうしてかは分からない。思うままに口にした疑問に、彼は答えてくれなかった。何を聞いても完璧に答えてくれていた彼が、答えてくれない。

「どうして…」
「ナマエ…ナマエッ…」
「司郎君、苦しいよ…」

首を絞められていた時よりも、ずっとずっと、苦しいよ。

150211
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