小説
GS2主=夢主

話があります。

そう切り出したところ、瑛くんは途端に表情を強張らせた。何を言われると思ったんだろう。
いや私の声色か表情かあるいは両方がそうさせてしまったのかもしれない、きっとそう。
深呼吸をして今一度気持ちを落ち着けてから話し始めた。

「あのね。私、ずっと瑛くんに隠してたことがあるんだ」
「それは……俺が聞いていいやつ?」
「……私のこと嫌いになっちゃうかも」
「それはない!……から。まあ話してみろよ」

何を言われるかと内心びびっているくせに強がってみせる。いつもの瑛くんらしくて、彼には悪いがいくらか緊張が解れた。
覚悟を決めなくては話せないことではあるけれど、かといっていつまでも緊張していたら伝わることも伝わなくなってしまうからちょうど良かった。

「ありがと。じゃあ包み隠さず言わせてもらうね。発端は高2のときに特殊能力に目覚めたことなんだけど」
「……ほう?」

真顔で驚ける人っているんだ。
予想していたものとは違ったんだろう、瑛くんの中で話を聞く上での心構えに修正が入ったに違いない。怪訝な顔色だ。緊張感が猜疑心にすり替わった気がするが最初の緊張状態よりはましだと思おう。
嫌われてしまうかもしれないこと自体に変わりはないので、少しでも良い方向へ働いてくれたらいいな。

「それはー……封印されし右眼が疼く的なアレか?」
「よく分かったね!?」
「はい?」
「そう、見えちゃいけないものが見えるようになっちゃって」

当ててきたよ、すごすぎない?
見透かされていたことへ驚きや怖れを通り越していっそ感心してしまった。やっぱり隠しごとってバレるようになってるんだなあ。
「正確には両目だけどね」と冗談めかして付け加えようとしたら、それよりも先に手のひらで口を塞がれてしまった。咄嗟にという速さだった。

「待て待て待て先に確認させてそれ如何では続き聞いてやれないかもしれない」
「??」
「怖い話しようとしてる?」

してないです。





そう回答しようと思ったのだけど、いやどうかな人によるかもと思い直す。便利ではあるけれどはじめて見えたときはなんじゃこりゃあ!って戸惑ったし。
そのまま伝えたところ、さきほどよりもしっかりと怯えてしまった。なぜ?

「べ、便利っていうのはつまりそういうことか?ここに何かいる、この道は避けた方がいいとかそういう……」

そういう路線の心配か。瑛くん神経が繊細だからホラー映画も怪談話もアトラクションのおばけ屋敷もダメだもんね。
ホラーの気配を感じ取って勝手に戦々恐々としている。顔は真っ青、手も震えている。
じゃあ、ここはひとつ。瑛くんの頬をつまんで左右へむにっと引っ張った。そしてじっと見つめるべし。これが正解。

「こわがらせてごめんね」

瑛くんは毒気を抜かれたようにぽかんと口を開けた。具体的に何を考えているのかまでは分からないけれど、おそらく突然何をするんだこいつは、みたいなことを思っているんじゃないだろうか。

「あー……ナマエが冗談でこんなこと言うわけないよな、うん。いやたまに言うか?」
「言っちゃうかも」
「……でも今回は違うんだろ?」
「うん」
「じゃあこっちも腹くくるか。続き話せよ」
「大丈夫そう?」
「ああ、不思議なことに本当にもう全く怖くない」

それは本心なんだろう。先に言っておくとしいて言うなら人怖系だから、その点は安心してほしい。

「最初に言った特殊能力……。まさに今のやつなんだよ」
「今のやつ?」
「そう。たとえば今なら……そうだな、えいっ!」
「っはあ!?」
「何かね、瑛くんの弱点?が見えるようになっちゃって」

厳密には弱点と言って良いのかはよく分からないんだけど。
不思議に思わなかった?私、自分で言うのもなんだけど鈍感な方でしょう?なのになんで自分のしてほしいこと手に取るように分かるんだって。今だって瑛くん、ほっぺたきゅってしただけで怖くなくなったでしょう?なんとなく、大雑把にだけどそういうことが“見える”んだ。

「びっくりした?」

不必要に明るく務めた。でないとうまく言えそうになかった。後ろめたさが邪魔をしていた。
瑛くんは意外にもこの件では驚いたりせず、顎に手を当てて思案顔で俯いた。それは硬い表情で、私が一貫して恐れていたことが現実になってしまったのだと悟った。





ある意味こちらに感情が筒抜けなわけでプライバシーなんてあったもんじゃないし、しかも私は瑛くんと仲良くなるために利用してズルもした。これって、いくら仲良しとはいえものすごく怖いでしょ?

「嫌いになっても仕方が」
「お前は、」

瑛くんと声が重なった。思わず声を噤んだのは懺悔や言い訳を言い連ねようとした私の方だった。

「お前は、怖くなかったか……?」
「だから私は驚いたけど最終的には便利だと思ってたし。利用してたんだって」
「それは俺がさっきみたいにビビったり落ち込んだりしたときにだろ……そういうことじゃなくて」

要領を得なくて頭に「?」が浮かぶ。

「俺がそういう目で見てるって知って怖くなかった?」
「……」
「お前こそ、嫌じゃなかったのかよ……」

そう言ったが最後、瑛くんは頭を突っ伏した。顔色は分からないが真っ赤になった耳が見えた。
想像の斜め上をいって戸惑ってしまう。

「そんなこと考えたこともなかったよ」
「ほんとに?」
「うん、ほんと」

伏せていた顔をちらりとこっちに向けてくれた。瑛くんの頭やさしく撫でると、とろんと気持ちよさそうな目になる。

「瑛くん、前は頭触られるの嫌だったでしょ。ふふ、今は気持ちいいんだ」
「……まあ、悪くはない」
「もっと触ってもいい?」
「いい、けど……っん」

嫌われてしまうかもしれないとあんなに怖かったのがウソみたい。もう瑛くんには全てを受け入れてもらえる気さえしている。
瑛くんの太腿に手を置くと大げさに身体を揺らした。いつもだったら私の手を取り上げて、大人ぶってかっこつけて何事もなかったかのように振る舞うところなのに、今日に限ってはそのまま自由にさせてくれる。むしろ気を許したばかりの猫みたいに遠慮がちにすり寄ってくる、これが瑛くんの答えなのだろう。全身が触ってほしいと主張していた。
何を言っても何をしても許してくれそうな今だからこそ、ついでにずっと気になっていたことも聞いてしまおう。

「あのね、瑛くん」
「っ……はぁ、なに……ナマエ……?」

この特殊能力には欠点があってね。全部大まかなことしか分からないんだ。見つめててほしいんだなーとかキスしてほしいんだなーとかね。あと例えばなんだろ……この辺りこすってほしい……とか?

「ね、瑛くん。どうしてほしい?」

教えて。あなたのこと全部知りたい。

240328
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