小説

「バカなの!?」と声を大にして言いそうになったところをスンの所で推し堪えた。既に0時を回っていることに加え、通話相手が合宿での共同生活の合間を縫って電話をかけてきていることを思い出したから。現場を抑えられて一番困るのは蓮二だ。バカだの何だの言っても蓮二を窮地に立たせたいわけでは決してない。窮地……、真っ当にいけば精々しばらくの間ネタにされて笑われるくらいだろうが、この男のキャラ的に、こう、ネタに昇華しきれず周りが持て余してしまう可能性がある。
柳蓮二、この男の供述を完結にまとめると、医療班で新作ドリンクの作成をしていた!試飲したところ不備が発覚!!勃起が収まらねえ!?今ここ!!!といったところだろうか。

「それプラシーボ効果だったりしない?身体が熱っぽいだけなのをそういう媚薬的なもんだと思い込んでるんじゃないの?蓮二ここ最近ラノベの読みすぎだって」
「なるほど一理あるが、どのみち残るのは俺の勃起が収まらないという事実だけだな。…………少しスマホを遠ざけてみろ」

言われた通り耳元にあったスマホを下ろす。一方的にビデオ通話になっていた。深夜ともあって辺りが暗く薄ぼんやりとしていて何が映っているのかよく分からない。

「何これ?」
「俺の股間だな」
「な゛っ!!!!!!」

あろうことか画面越しに勃起ちんこを見せつけにきている。思わず飛び出た絶叫は蓮二のことだからうまいことミュートしているだろう考慮の余地はない。ベッドにぶん投げたスマホを拾い恐る恐る画面を確認すると、この間に設定を弄ったのか蓮二の顔が映っていることが分かった。話し方はいつも通りの平静さがあったのに、蓮二の表情といったらもう。悲壮感すら漂うというか、かなり追い詰められているようで、ここでようやく事の重大さを思い知るに至ったわけだ。

「……仮に本気でドリンクが原因だとしたら、大量に水飲んで排出するという方法はどう?」
「ナマエ知っているか?勃起中の排尿は痛みを伴う上、今の俺のように完勃」
「分かった!分かったから!もう見せなくていいから!」
「事実確認はできたな。そこでナマエに協力してほしいことがある」

同級生の下半身事情が赤裸々になっていく様子についていけていない。この男、羞恥心というものがないのか……?いや羞恥心がなければこの状況を秘密裏に処理したいとは思わないか、ぜひ私にも秘密にしておいてくれよ。

「……協力してほしいことって?」
「通話を、続けてほしい」
「……通話?通話だけ?」
「そうだ」

正直拍子抜けだがよくよく考えれば私は無関係の部外者なので過剰な要求をされるいわれはないんだった。絶体絶命な状況でそんな可愛いお願いをするんだと思わせておいて、後からもっととんでもない要求をかましてくるつもりか……?ダメだ、柳蓮二という男の私に対する素行が悪すぎて信じ切れない。



改めて音声通話をし直して蓮二との会話を続けている。蓮二は合宿でのこと、私は学校でのこと等を取り留めなく。ただ蓮二の方は時折言葉を止めることがあって、それは決まって鼻にかかった甘ったるい吐息を伴う。徐々に間隔が狭くなっているのでもはや日常会話など成り立たない。でも私まで黙ると蓮二の喘ぎ声を聞き続けるという状況になってしまうので、話題を捻り出しながら終わりを今か今かと待ちわびていた。

「っなぁ、ナマエ」
「……んー?」
「お前は今、早く終わってほしいと思っているだろう?」
「うん」
「ならば進捗は気にならないのか?」
「気に、ならなくはないけど」

具体的にはあとどれくらいで終わるのかとかな。

「これからはそういう話題にしないか」
「……そういう話題?」
「この状況に即した話題を然るべきタイミングで出してほしい」

回りくどく言っているが、つまるところ言葉責めしてってこと?やっぱりアホなのかなこの人、同級生の女に何を求めているのか。蓮二の要求は予想通り多少だがエスカレートした。もう開き直ってとことん付き合うべきかもしれない。

「そのほうが結果的に早く済む」
「……もう乗りかかった船だから付き合うけど。このことは他言無用で良いんだよね?」
「もちろんそのつもりだが」
「分かった……。ねぇ蓮二、今って気持ちいいの?それとも痛い?」
「痛く、はないな」
「じゃあ気持ちいい?いつものオ、オナニーと何が違うの?」
「……通常の射精時と違って終わりが見えない。緩い快感が延々と続くような」
「ふーん結局気持ちいいんだ?私は眠いの我慢してるのに蓮二は気持ちよくなってるんだね」
「っすまない」
「悪いと思うなら行動で示して?さっさとイって寝かせてよ。あ、でもちゃんとイケないんだっけ?かっわいそー」

さっさと終われ!!という気持ちがはやって次第に饒舌になる。スマホと口元が近いのか蓮二の吐息が鮮明に伝わってきた。これで正解らしい。ただ私は無論専門家でもなんでもないので早々にボキャブラリーがなくなり横のPCで”言葉責め””セリフ”などなどを検索する羽目になるのだった。

220314
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