「ナマエはドラゴンタイプは使わないな。なんでだ?」
「ああ、まぁ…」
思わず言葉を濁す。ドラゴンタイプを使わない理由ははっきりとしているが、ドラゴン使いを前にすると言うに憚られる。視線まで逸らしはじめたせいか、こっちを見ろと言わんばかりにキバナさんの大きな手が顎を掴んできた。
「キバナさんって睫毛の生え際までキレイな褐色なんですね」
「話を逸らすな」
「……何でそんなこと気にするんですか?」
「ドラゴン使いとしては見過ごせないだろ?……あの手この手、使えるもんは何でも使うくせに」
「まぁ」
「怖いのか?」
「ドラゴンタイプの子が?まさか」
ちらとソファの裏側でへそ天になって寝ているキバナさんのヌメルゴンを見た。ドラゴンタイプのポケモンのあんな姿を知ってしまえば、ドラゴン怖いだなんて夢にも思わない。
必死に言葉を連ねるキバナさんは、強くドラゴンタイプを愛している人だという感じがする。吸い込まれそうになるほどにまっすぐとこちらを見て、相手の心を推しはかることに余念がない。
「じゃあ単純に嫌いなのか?それとも、」
「ドラゴンタイプの子に好かれる自信がないんですよね」
「はぁ?」
「ドラゴン使いは正義感に溢れた清廉潔白な人間にしか務まらないって偉い人が言っていました」
「何?その説」
「だから、私は卑劣で小賢しくて正義感の欠片もないのでドラゴン使いには向かないんです」
そんな自分を認めてくれたキバナさんには嘘を吐けない、そう思う程度には性根が改善してきている。誤魔化しが効かないのなら洗いざらい吐くしかない。全面降伏だ、満足か。
「……」
唐突に、キバナさんはガラス製のローテーブルの裏側に張り付いているヌメラを1匹鷲掴み、私の膝へ置いた。ヌメラは膝の上でヌヨんヌヨんと弾んでいる。駆られるままに突き出した指先は口と思しき部分で吸われた。
「お世辞にもナマエは正義感に溢れても清廉潔白でもないが……」
キバナさんは一度言葉を区切って、ヌメラを再び持ち上げて私の眼前へ寄越す。
「ドラゴンタイプには好かれてる、その点は自信を持っていい」
目の前にいるヌメラは私に向かって、にこぉ、と笑いかけているように見えた。
210118