小説
男主 / 傍観 / 氷帝3年の扱いが酷いです

耳と目を取り外して丸洗いしたい心境だった。それくらい、目の前に広がる光景は理解不能だったのだ。

「おもしれー女だって。俺、そんなセリフはじめて聞いたわ」

ここにいるのはテニス部2年ばかりだ。昼食を取りながら、俺たちがさきほど3年の教室で目撃してきた光景を語る。"俺たち"の内訳は俺と樺地。跡部部長に用事があったので樺地にもついてきてもらったのだ。レギュラーでも何でもない、しがない男子マネージャーで庶民の俺は未だ跡部部長に慣れていないから。

しかし、それに関しては完全に裏目に出てしまった。美しすぎるお弁当を広げている樺地は、いつものように表情が読みづらくとも、いくらかしょんぼりとしている。

「あれか?噂の転校生とかいう…」
「だろうね、見覚えのない顔だったし」

既に弁当を食べ終えている日吉がお茶を飲みながら話す。日吉の言っている噂の転校生と跡部部長がちょっかいをかけていた女子生徒はおそらく同一人物だろう。3年に転校生がやってくるという情報は得ていたけれど、その時はこんなことになるとは思わなかったなあ。

別に、跡部部長に春が来ようが俺には関係のない話だ。でも、そうとも言っていられない事態に発展しかけてしまっている。

まず、少し跡部部長に会いに行っただけで樺地がこんなにも落ち込んで帰ってきたということ。これだけで異常事態なのだ、誰が見ても跡部部長は樺地をいっとうに可愛がっていた。なのに、跡部部長は樺地に声を掛けるどころか一瞥さえ寄越さなかったのだ、まるでいないもののように扱った。

樺地は何も言わないし表情も崩さない、でもショックを受けていることは伝わってきた。そんな樺地を連れて俺は慌てて2年の教室に引き上げてきたばかりだなのだ。

他にもおそらく面倒な展開になるであろうことを予感させるものが要所にあった。3Aの教室には跡部部長だけでなく3Hの忍足先輩までいたことやLINEマメな向日先輩が既読無視なところなんかは不穏でしかない。

この中の誰より宍戸先輩と仲良くしている鳳に至っては、スマホを握り締めて絶望しているところだった。おそらくヤツも宍戸先輩から連絡が帰ってこないのだろう。

あの女慣れした跡部部長や女に厳しい忍足先輩、まだ異性に興味がなさそうな向日先輩に堅物な宍戸先輩までもを夢中にさせる女子生徒。すげえなあ…と心底感心する反面、先輩たちに対しては何となく失望めいた感情を抱いていた。

女の子に現を抜かそうが俺には関係ない、関係ないけれど後輩を悲しませるのはいただけないし、先輩たちの動きからは仲間内で1人の女の子を取り合って部活に支障が出る予感しかしないのだ。

樺地はしょんぼりしているし鳳は絶望しているし、日吉は…。

「下剋上だ…!」

だそうです。日吉は通常運転で少しだけほっとした。自分で思っていたよりもビビっていたらしい。それにしても、これから氷帝テニス部はどうなってしまうんだろう。

201018
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