小説
ときメモ2元ネタ / 痛い

生まれつき何故だか不幸体質で、それは成長に伴って顕著になっている。この前は川に落ちたし、今朝は自転車に轢かれた。

病院へ行ってから昼休み中に登校すると、幼なじみの貞治とその友人の手塚くんが迎えてくれた。手塚くんは包帯まきまき姿で松葉杖をつく私を見て、ぎょっと目をひん剥いた。いい加減慣れてくれてもよいものを、手負いで登校するのは中学から数えても両手で事足りないというのに。

一方、貞治はノートに書き込みをし出した。そのノートは貞治曰く私専用のもので、テニスのためのデータ収集をはじめた頃から私のデータを別口で集め始めたという。

不幸体質というものが珍しかっただけなんだろうけれど、今では貞治のデータのおかげで危機回避ができることも少なくないので、素直にありがたく思っている。

「ナマエ、今日はどこをやった?」
「んーと、折れたのは右足だけ。あとは擦り傷と打ち身」
「…ふむ、触るぞ」
「うん」

椅子に座って、とりあえず左手を貞治の方へ差し出す。包帯の上から大きな手のひらで擦られたが、今ではもう痛みに耐性がありすぎて特に痛みは感じられなかった。

首をかしげる私を見て、貞治は腕の包帯を剥き出した。貞治ならちゃんと巻き直してくれるだろうと思って好きにさせる。

ベロ、と剥がされた包帯の下は、赤黒い打ち身の痕と露出した肉が折り重なっていて、我ながらぐろかった。クラスの皆のお昼ご飯が済んでいて良かったと思う。

貞治はそれらを少しの間じっと見つめてから元通りに包帯を直した。そして頭に触れようとして手を引っ込める。頭は大丈夫そうでも危ないのだ、これ以上アホになっても困る。

「足もいい?」
「うん、どうぞ」

貞治が膝をついて床に座ったので、その膝の上に足を乗せた。自分よりも圧倒的にでかい男が跪いている、という状況は私を奇妙な気持ちにさせるのだけど、この感情の正体はよく分かっていない。

貞治のことを見下ろす形になると眼鏡の隙間から彼の目元か窺えるから、その点については得をした気分になっている。それだけは間違いない。

膝辺りから太腿に向かって貞治の手のひらが這い上がってくる、どこまで包帯が巻かれているのか確かめるために。スカートの中に指先が侵入しそうになった辺りで手塚くんが貞治の肩を掴んで止めた。手塚くんの顔は真っ赤だ、あとクラスメイトの注目も集めてしまっている。

「教室でやることではなかったね」
「そのようだな」

貞治がくいと眼鏡を押し上げた、私のスカートの裾を邪魔そうにしていた指先で。貞治の目元が見えなくなったことを残念がりながら、私は思う。この不幸体質が、いつか彼を巻き込まなければいい。もしもそうなってしまったら、もうこんな些細なことに残念がれなくなるから。

「あ」
「どうした?」
「脚の包帯ね、あと20cm上までだったよ」

手塚くんに止めてもらって正解だったね、と言いながら、代わりに私が貞治の頭を撫でた。

これからも乾がリスク管理してくれるのでずっと一緒です

200921
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