小説
続く?

放課後、教室に残っていたのがたまたま私だっただけ。私が出した消しカスが想像よりも多くて目立つから、軽く掃除しようと思っただけ。
教室の後ろに備え付けられているロッカーから箒と塵取りを取り出そうとしていると、すぐ隣の廊下へと続くドアが勢いよく開いた。驚いてロッカーの扉に手を添えたまま振り向くと、息を切らした切原赤也が立っていた。

「切原君どうしたの?」
「ミョウジっ…やべ」
「えっ!んぐ!!」

背中に、手のひらの形をした焼き印を押された気がした。力強く押された後に、声が出せないように手で口を塞がれて、私は切原君共々この狭くて埃っぽい空間で身を潜めなくてはいけないことを理解する。
しばらくすると、怒気のこもる声で切原君を呼ぶ真田先輩が近づいてくるのが分かった。背中から切原君の鼓動と熱が伝わって、巻き込まれただけの私にも緊張感が走る。
しかしその声は次第に遠退いていき、切原君は寸の所で真田先輩に捕まらずに済んだようだった。
確かにあの状態の真田先輩に捕まったらただでは済まなさそうだ。
真田先輩の気配が完全になくなったところで、切原君はようやく口を塞ぐ手を離してくれた。

「っはぁ〜〜〜やっと撒けたぜ……」
「それで切原君、なんで私は巻き込まれたのかな」
「もうここしかねぇと思ったんだよ」

都合良く隠れられる場所があって、その動作線に私がいたということなのだろう。言ってくれれば退いたのに。
切原君は力が抜けたように項垂れて、もじゃもじゃする頭を私の肩口に乗せた。こんな狭くて埃っぽい場所からは早く出たいのに。

「切原君、もう出よ」
「ちょっと待てよ……よしいける」

念入りにもう一度周囲の気配を確認してから、切原君はロッカーの内側を押したようだった。

「あれ、開かねぇ」
「…うそ」
「いやマジだって」

そんな嘘だ。足で扉を蹴ろうとしたら切原君の脛の辺りを蹴っ飛ばしてしまったようで、切原君が悲鳴を上げた。慌てて代わりとばかりにお尻で押す。
といっても私と扉の間には切原君がいるので、私がどれだけ足掻いても意味がないという事に気付いたのは、後ろから切原君に腰を掴まれてからだった。

「ミョウジ…とまれっ!」
「何?切原君も開けるの手伝ってよ」
「分かってっから!でもちょっと待って……っ」

後頭部の辺りで切原君が深呼吸をする。

「…よくこんな埃っぽいところで深呼吸できるね?」
「え…あー…、ミョウジの髪の匂いしかしねぇ…し」

生暖かい空気が頭皮を撫でた。確かに髪の匂いを嗅がれている気配がする。はぁはぁと息苦しそうなのに、切原君は私の後頭部から顔を離さない。
切原君の吐息の音がロッカーの内部で響く。

「ね、切原君まだ?」
「…まだ。つーか無理ごめん」
「何が…!?」

切原君がぎゅうと抱き着いてくる。離れていた身体同士が再び密着して、彼が何を言いたいのかようやく察した。
さきほどまではまったく気にならなかったのに。それがいつの間にかお尻で形が分かるくらいに硬くなっていることに気が付いてしまう。
その感触から逃げようとお尻を引っ込めても、追いかけてくるように下半身をぐりぐりと擦り付けられてスカートが徐々に捲りあがっていく。

「切原君、こんなことやってる場合じゃ…」
「ちょっとだけ、お願い」

片方の手のひらがせり上がってきて、ワイシャツの上から胸に触れる。もうこれはどうにもならないと思って、狭苦しいロッカーの中に充満する埃っぽさや熱気や薄い空気、そんな不快さを飲み込むように私は大きく息を吸った。
注意力が散漫になっている切原君には分からないかもしれないけれど、力強い足音が近づいているから。

200811
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