小説
続く?

くのたまは6年生になる前に自主退学する子が多いので、私のような6年のくのたまは珍しい。同級生のくのたまは既に学園を去った後で、1つ下の後輩も半分以下になっている。
そして私は唯一の6年くのたまという事で、女子の力を借りたいという上級生の忍たまからは度々頼まれ事をされるのだ。いがみ合っていた低学年の頃だったら考えられないけれど、6年も同じ空間で生活していると妙な連帯感が生まれるらしい。

今、私の目の前では、忍たまの同級生――富松作兵衛と次屋三之助が死ぬほど似合わない女装姿を晒していた。一時は私よりも背が低かったこともあったのに、気が付けば背は追い抜かれて見上げるほどになったし、身体の厚みも増してすっかり男らしくなった2人。女装姿の大男2人の異様さと威圧感たるや。
富松は露骨に真っ赤な口紅をつけているし、次屋は次屋で2つのバレーボール胸に、どこで見つけてきたのか青色の化粧品をふんだんに使用してしまっている。そして2人とも香の焚きすぎで妙にくさい。
上級生における女装の失敗例をすべて詰め込んだ悪夢のような光景に眩暈がした。

「女装授業が追試になった、助けてくれ」

そう切実そうに言ったのは富松の方。真っ赤な口紅はい組の伊賀崎孫兵チョイスらしい。なるほど孫兵はきっと似合うだろう、ジュンコちゃんとおそろいで素敵だと思う。
次屋は作法室のものを使ったそうだ。ああどうりで見覚えあると思った、それ斜堂先生メイク用のやつ、主に作法委員が授業をサボる時に額や目の下に塗って使用する。
自分たちなりに試行錯誤を繰り返したのか髪はボサボサ着物はヨレヨレ。何だかもう面白すぎて、頑張って堪えていたけれど大声を上げて笑ってしまった。半泣きの女装姿で助けを求めてくる用具委員長と体育委員長だなんて最高。今はもういない同級生のくのたま達にも見せてあげたい。

「うん、良いよ」
「よろしくお願いします!!!!!」

大声で笑ってしまった手前断るのは忍びないし困った時はお互い様だから。私は後から自分の部屋で会う約束をして、2人には酷い化粧と匂いを落とすためにお風呂に入っておいでと背中を押した。



化粧道具の入った道具箱や鏡を用意していると天井板からノックの音が聞こえた。「どうぞー」と答えると上から富松と次屋が下りてくる。

「そういえば神崎は?あの子も追試じゃないの?」
「左門は俺たちを裏切ったんだ……」
「裏切り?」

次屋曰く、神崎は去年卒業されたばかりの田村三木ヱ門先輩直筆の女装対策ノートを受け取っていたらしい、そしてその対策ノートのおかげで難を逃れたそうだ。アイドル学年と名高かった田村先輩は、伝説の会計委員長潮江文次郎先輩のときに手助けした経験から、潮江先輩と同様のことが神崎にも起こると予見し、可愛い後輩のためにせっせと専用の女装対策ノートをしたためていたというのだ。なんて後輩想いの先輩なんだろう。私はそのエピソードにほっこりとした気持ちになったのだけど、話している次屋はと言うと非常に憎々し気な表情を浮かべている。

「何でそんな顔してるの、良い話じゃない」
「じゃあ何で俺には滝夜叉丸のノートがないんだ!?」
「……可愛くないからでは?」

前後学年の仲が悪いのは恒例だけれど……。そんな中でも田村先輩と神崎はそこそこ良好な関係になっていった一方で、平滝夜叉丸先輩と次屋の仲は最後まで最悪だったなと思い出す。

「何!?こんなに可愛いのに……」
「可愛い奴は追試にはならねぇんだよ。ミョウジ、マジでよろしく頼むな」
「はいはい、じゃあ富松からね」

富松を鏡の前に座らせ、まだ乾ききっていない髪をまとめる。

「そういえば女装授業の採点基準って何?」

そんな疑問を投げかけると、鏡越しの富松の目は「それが分かれば苦労しねぇ」と雄弁に語り、後ろでバレーボールをレシーブして遊んでいる次屋が「ちんこが勃つかどうか」と言い放つ。全くもってふざけている、座学できちんと聞いていなかったに違いない。

「いや、それが本気で三之助のセンサーは馬鹿にできねぇんだよ……」
「今のところ百発百中。孫兵とは組はイケると思ったし左門のちょいブスな感じはなし寄りのありだった」
「ええ…」

呆れ顔を私に対し、富松は真面目な顔を、次屋はどや顔をする。そんな馬鹿な。

「だから作兵衛の女装で俺のちんこを勃たせてくれ」
「次屋あんなこと言ってるけど富松公認?すぐ後ろに自分見て勃起する同級生いて耐えられる?」
「大した自信じゃねぇか…さあ俺を傾国の美女にしてくれ」
「そこまでは言ってない」

200729
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