小説
身動きの取れない繭の中から救い上げられるような目覚めだった。寝起きの癖とでもいうのか、身体を起こして両腕を伸ばそうとしたのだけど、思うようにいかなくてはたと動きを止めた。
さきほど感じた”身動きの取れない繭“という感覚はこの上なく正確であったらしい。
なぜか寝袋の中で眠っていたのだ、両腕はもちろん両脚も動かせない。腕だけ外に出すにもコツがいるようで、悪戦苦闘しながらなんとか両腕を外へ出す。生まれてこの方、寝袋で寝たことなんてないのに、なんでまたこんな……。

――ピピ

しばらく呆然としていると、枕元に置いてあったスマホからアラーム音が鳴り出した。手に取って画面を確認すると、スケジュールには“入学式”と記されている。

そこでようやく私は自分の身に起きている得体の知れない違和感の正体に気が付いた。夢と現実の区別をつけることができていないのだ。あんなに息苦しくて思うように動かなかった身体は確かに私のものだったのに、力強い鼓動と共に自由を後押しするこの身体だって、今の私のものだと強く主張する。普通なら、夢であるものの方が次第にあるいは急激にぼやけて、ああ夢だった、とわかるはずなのに。それがわからない。

「……頭こんがらがってきた」

だけど、夢か現実かよくわからないのなら自分にとって都合の良い方を選ぶ。喉から手が出るほど欲しくてたまらなかった健やかな身体。そんな身体に神様が私をつめこみ直してくれたのだと、そう信じたい。夢の中で、前の私は死んだのだ。
脱皮するように寝袋から抜け出し、何にもない殺風景な部屋を歩いた。裸足のままベランダへ出ると、朝日を反射する海が見えた。

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