小説
美奈は息を呑む。最もあってはならない事実。村の求導師である牧野慶の妻となったミョウジナマエと、その求導師と血を分けた双子の弟である自分の恋人が。

「嘘……何てこと……!」
「美奈」
「司郎、さん…?」
「あれは牧野さんとナマエさんの子どもだ」
「……本当に?」
「当たり前だろう?」

美奈は、本心では恋人を信じ切ることができなかった。しかし嘘か誠かに関わらず、たとえ誰かに訴えたとして一介の看護婦の話を誰が信じるというのか。宮田はこの村唯一の病院の医師で、この村のために働く立派な人で、美奈にとっては求導師くらい、いや求導師以上に尊敬のできる人で……。そして、この過ちを正すことに意味などないことも美奈には分かっていた。

「司郎さんを、信じます」
「分かってくれて何よりだよ、美奈」

愛している、宮田が吐いた言葉を美奈は信じたかった。

(200619 / →)
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